建帛社だより「土筆」

平成25年9月1日

改めて「家政学分野」を考える貴重な機会を得て

日本学術会議連携会員 新潟医療福祉大学准教授  塚原 典子この著者の書いた書籍

 政学分野で育てていただき,教育・研究に携わってきた私が,保健・医療・福祉分野における管理栄養士養成にかかわって早12年。この間,日本学術会議連携会員として健康・生活科学委員会生活科学分科会(第20・21期)および,家政学分科会(現在,第22期)において著名な学識高い先生方とともに分科会活動に参加させていただいているが,この活動を通して「家政学」の学問領域の奥深さとともに,「家政学」が人間生活の基盤を学ぶ学問として大学の教育課程編成上,重要な位置を占める学問領域の一つであり得ることを再認識することができた。

 「家政学」は人間生活における人と環境との相互作用について,人的・物的両面から研究し,生活の質の向上と人類の福祉に貢献する実践的総合科学であり,関連する人文・自然科学の研究分野や社会の諸問題を,生活する人の視点から統合的にとらえ,他の学術分野と補完し合いながら,現代の変化に富む社会のニーズに対応する学問である。現在所属している家政学分科会は,このような家政学特有の観点から,人の暮らしや生き方に関連する今日的課題を総合的に検討し,すべての人が健康で生き甲斐をもって人生を全うするための方策を,生活者の視点に立って提案することを目的として活動している。

 値観が多様化し,成熟した現在の日本社会において画一的な「規範となる生き方」はなく,豊かな質の高い社会を構築するためには,個人個人が総合的な視野で自分自身がどのような人生を送るかを選択する必要がある。健康で健全な豊かな生活(QOLの高い生活)を創り上げていくための生活にかかわる諸事を多面的に理解し,自身の生活の場で選択・実践していくことが必要である。

 らには,大学で専門教育を受け,それぞれの分野で専門家として社会活動を行う場合にも,最も基礎となる人間の生活を考えることのできる総合的視点が必要である。そこで,家政学分科会では,大学の教養教育の中に授業科目「生活する力を育てる」を開設することを提案する活動として,『人と生活』を刊行した。

 た,健康・生活科学委員会 家政学分野の参照基準検討分科会にもかかわらせていただき,平成25年5月15日に,報告「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 家政学分野」を取りまとめ,公表することができた。

 めて「家政学分野」を考える貴重な機会を得て,常に,人としての原点に立ち返って“人としていかに生きるか”“自身のQOLの向上を目指した生活をいかにして送ることができるか”を考えること,さらには,常に生活者の視点から総合的に人間の生活を考えることの大切さを痛感する昨今である。生きる基本を学ぶ学問分野がまさに「家政学」であること,そして「家政学」は,人間生活の基盤を学ぶ学問として大学の学士課程編成上重要な位置づけの一つであり得ることを改めて再認識しているところである。価値観が多様化し成熟した現代社会だからこそ,極めて重要な学問分野といえるのではないだろうか。

目 次

第98号平成25年9月1日

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