建帛社だより「土筆」

平成27年1月1日

介護リフレクションのすすめ

神奈川県立保健福祉大学教授  峯尾 武巳この著者の書いた書籍

 たちは,介護現場で起こる様々な現象に心を動かされ,様々な反応を示す。冷静に判断できることもあれば,思いつきや感情に左右されながら,優しく,ときには厳しくなっている自分に気づくことがある。状況判断に自信がもてず,うやむやにして,思うようにいかない結果を他人のせいにしてしまうこともある。

 かし,自分の行動に責任をもち,自分と向き合うことがなければ介護福祉士としての質の向上はありえない。専門職である介護福祉士は,主体的に考え,自分の行動に責任をもつ基本的姿勢,すなわち,課題や理由を考え,考えながら行動する反省的実践家としての姿勢が求められる。

 ナルド・ショーンは,1930年にボストンに生まれた多彩な思想家である。ショーンによれば,実証科学を基盤として形成された近代の専門職の職域・力量やその養成のカリキュラムは,科学的技術の実践場面(問題解決場面)への合理的適用を原理として,それに熟達することが掲げられ,その習得が専門性の内実を構成してきたと考察している。一方,教員や看護師,福祉士などのクライエントの複雑(複合的)な問題に立ち向かう新しい専門職は,職務や職域があいまいなマイナーな専門職とみなされる傾向が強いが,新しい専門家は「技術的合理性」の原理の枠を超えたところで専門家としての実践を遂行していると指摘している。

 ョーンは,従来の「技術的合理性」モデルの限界を指摘し,不確実であいまいな予測しがたい問題状況に対して,「状況との対話」を通して,自己の経験から蓄積した「実践的認識論」を用いて立ち向かっている,そうした臨床活動への反省(リフレクション)を基礎に自己の専門的力量を開発していく専門職のことを〈反省的実践家〉と呼んだ(D・ショーン『専門家の知恵』ゆみる出版 2001年)。

 護福祉士は,他者の行動や感情,思考傾向からその生活上の不具合に気づき,その人の意思を尊重し,よりよく生きようとする力を支えていくことを目標としている。介護福祉士としての知識や解決方法,感受性を豊かにしていくためには,①対象者に生じている課題発見のプロセス,②その課題を解決するための計画を立て実施するプロセス,③解決結果をモニターし改善に結びつけるプロセスに沿った実践が必要である。介護リフレクションとは,介護実践のプロセスを丁寧に振り返り,経験から学ぶことであり,介護福祉士は実践的認識論を基礎に,行為しながら考える新しいタイプの専門職である。

 護の専門性や介護福祉士の質の向上,養成教育や資格制度についての議論が続いている。この議論を一部の研究者や関係者だけのもので終わらせることなく,介護実践の中から,介護の独自性や専門性について検証を続ける介護現場をこれからも応援して行きたい。

目 次

第101号平成27年1月1日

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