建帛社だより「土筆」

平成27年1月1日

“和食”と栄養学・食糧学研究

日本栄養・食糧学会会長 お茶の水女子大学大学院教授  近藤 和雄 この著者の書いた書籍

 “和食:日本人の伝統的な食文化”は2013年12月,ユネスコ無形文化遺産に登録されました。和食(日本人の食生活)の良さは味覚,健康面など様々な面から検討が加えられ,いろいろ言われていますが,栄養学・食糧学の研究に携わっている人たちにとっての最大関心事のひとつは,和食をとっている日本が,世界最長寿国であり,先進諸国の中で最も心臓病の少ない国であることかもしれません。

 本は,食糧不足を克服,1980年代前半に世界最長寿国となりました。しかもここ十年以上は,先進諸国の中で最も心臓病の少ない国であり続けています。こうした背景には,毎日の食生活が無縁であるわけはありません。日本人の食生活,和食が注目を集めるのは,当然と言えば当然の話です。

 れまでの日本の栄養学・食糧学研究はとかく欧米の食事因子を題材にとり,あるいは欧米に顔を向けての研究が主であったような気がします。確かに,日本は戦後の食糧不足の時代から米国の飽食の食生活を横目に見ながら,米食中心の食生活を基に,欧米の肉食文化,中華料理,地中海式食事など様々な国の食生活の一部を巧みに取り入れ,現在の日本の食生活を作り上げ,世界最長寿国を達成した歴史があり,一概に悪いわけではありません。

 かし,これからは欧米に顔を向けた研究ばかりでなく,日本の足元を見た研究が必要になるように思います。日本はなぜ最長寿国になったのか,心臓病が世界の中で最も少ない理由は,日本人の食生活のどこにあるのか,私たちの食べている食生活は,どこがそれほど良いのかを見定め,アジアに,世界に発信することが求められています。

 年5月には,日本栄養・食糧学会が中心となって第12回アジア栄養学会議(ACN)が開催されます。これは,今年68年目を迎える日本栄養・食糧学会が8年前,本間清一会長,宮澤陽夫副会長,石田均副会長時代に打ち出した,将来を見据えた栄養学・食糧学のグローバル展開の一環として行われるもので,今年このアジア栄養学会議をパシフィコ横浜で,第69回日本栄養・食糧学会大会と合同で開くのに続いて,2021年には,国際栄養学会議(ICN)が東京国際フォーラムで開催されることが,一昨年スペインのグラナダで行われた国際栄養学会議の総会で圧倒的多数の賛成で決定されました。すでに日本の使命は日本を飛び越え,世界の栄養学・食糧学をリードする立場に立たされていることを肝に銘ずる必要があります。その意味では,アジア,国際と続く栄養学会議は,日本の食生活の良さを研究,教育などの面からアピールするのに絶好の機会でもあります。

 本は,終戦後の栄養不足を克服して,欧米とは異なった米食中心の食生活を確立,先進諸国の仲間入りをし,長寿国になりました。しかも,最も心臓病の少ない国としての位置をここ十年以上保ち続けています。米食を中心とした食生活での栄養不足克服の経験は,同じ米食を中心とした食生活をもつアジア諸国の人々の参考に多いになるはずです。

 回のアジア栄養学会議には,演題数が1,600,参加人数は国内外から4,000名の研究者を予定しています。一般演題のすべてが英語での発表となります。アジアを中心とした海外からの研究者にまじっての発表や議論を深め,六年後の国際栄養学会議を意識しながら交流の機会をもつことは,若手研究者のみならず,すでに中堅,熟練の域にある研究者にとっても格好の場になるはずです。

 の会議への参加を契機に,“和食”のアジア諸国への発信だけではなく,アジア各国との共同研究が広がり,栄養学・食糧学の研究が大きく進展するように,オールジャパンで会議を成功させたいと考えています。

目 次

第101号平成27年1月1日

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