建帛社だより「土筆」

平成27年1月1日

自治体による結婚支援

大妻女子大学教授  小澤 千穂子この著者の書いた書籍

 治体の結婚支援事業を支援するNPOの設立・運営にかかわって二年が過ぎた。「結婚したい」「家族がほしい」という希望が一人でも多く叶うよう支援のあり方を考え続けている。

 年より国の予算がついて,結婚希望者に出会いの機会を提供する事業や,つきあい方講座などを開く自治体が増えてきた。内閣府の補助金である「地域少子化対策交付金」の中で,「結婚に向けた情報提供等」の事業にも補助金が出ることになったためである。

 質的なことを言えば,少子化対策と結婚支援は分けるべきものである。人は必ずしも子どもをもつために結婚するわけではないし,子どもをもつ予定はないが結婚したいと願う人も等しく支援されるべきであるからだ。

 かし,若者の結婚難が少子化の要因の一つであることは間違いない。日本では,法律婚が成就してこそ,女性は安心して出産できると考える人が多いのが現状であるため,結婚支援が少子化対策として位置づけられることに違和感をもつ人が少ないのであろう。

 後は戸籍上の夫婦という形にとらわれたくないが家族をもちたいという人を含め,多様な家族のあり方を国や自治体が積極的に支援することが大切だと思う。多様性への寛容度が低く,画一的な家族観が根強いために,「ちゃんとした結婚」にこだわらざるを得ず,結果として結婚のハードルが高くなっていると考えるからだ。

 はいえ,多くの若者に結婚意欲があるにもかかわらず「適当な相手がいないから」未婚のままでいるという現実を踏まえれば,国の補助金が出て自治体の結婚支援が盛んになることはよいことである。

 は,地方の結婚相談所の調査を行ったことがあるが,農家の長男の場合,八方手をつくしても成婚に至らないことが多く,割に合わないので相談所への入会さえ断るという仲介業者が少なくなかった。新婚時は別居するとか,別棟で暮らすという条件であっても,女性から敬遠されがちで見合いに至ることさえも困難であるということだった。

 在,多様な民間結婚情報サービスが存在するのであるから,自治体が結婚支援に関与して税金を使う必要はないだろうという意見もあるが,地方や農村部の独身者の中には民間業者を利用しても成果が期待できない人が多い。大手の結婚情報サービスなどは,会員数が多いが,地方や農村部在住者と結婚しようとする人は少なく,登録料や会費だけを空しく支払い続けることになり兼ねない。

 域の実情に合ったやり方で,様々なイベントを企画し,独身者に寄り添って,きめ細かな対応をするのは,公的支援でなければできないのである。自治体が後押しし,わずかでも補助金を出すことで,地域の「おせっかいさん」たちを復活させている例も多い。

  NPOのイベントに参加した独身男性が,町役場の結婚支援担当者から声をかけられるのが最初はうっとうしかったが,やがて自分はこの町で大事にされているのだと感じるようになったと話すのを聞いたことがある。

 婚支援は,結婚を迫りプレッシャーをかけるのでは成果が上がらない。粘り強くコミュニケーションを重ねて見守り,時に背中を押してみるというデリケートなプロセスなのである。

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第101号平成27年1月1日

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