平成30年9月1日
障害のある子どもの生涯発達における支援
中部大学教授 武藤 久枝この著者の書いた書籍
臨床心理士として障害のある子ども達とかかわってきて感じることは,成長と共に子どもが変わっていくことである。乳幼児期に支援した子ども達に偶然,街角で出会うことがある。見違えるほど成長して,重度の障害がある子どもが就労している場合がある。その反対に,小学校入学当初,普通クラスで就学した子どもが特別支援学校へ通学している場合もある。幼児期にその後の成長の見通しを立てることがいかに難しいかを考えさせられてしまう。青年期を経て成人して就労に至るまでには,当然,保護者や家庭の力,そして教育の力の影響も大きい。そうした長期に渡る影響について少し考えてみたい。
子どもが変わっていくことに影響を及ぼす要素として,第一に,従来から指摘されていることであるが乳幼児期における対人関係の安定した基盤の形成があげられる。養育者との間の安定した愛着形成が子どもの対人関係の基盤となる。親子関係の重要さは障害のない場合にももちろん当てはまるが,障害のある子どもの場合にはより一層,その影響は大きいようである。社会生活を送るためのスキルとしてあげられる生活習慣の確立,交通機関の利用,買物等はできたほうが望ましいことはいうまでもないが,仮にできなくても困ったときに周囲の人達に支援を求める力をもつことが大切である。それは,周囲にアドバイスを求める力であり,聞いたアドバイスを受け入れる力である。すなわち支援関係を形成できる対人関係であり,その基盤を乳幼児期に身につけることが大切である。
第二は,周囲が子ども一人ひとりに合わせて工夫して働きかける力のような気がする。その子どもに合わせて周囲の環境を工夫する,もしくは丁寧に生活スキルを教えている保護者や保育者に出会うことがある。例えば,服の前後・左右を自分で判断できるようすべての服の特定の場所にアップリケ等の目印をつける等の工夫である。障害のない子どもなら自然に覚えていくことでも,周囲が一つひとつ丁寧に教えている。これらの積み重ねが何年もたつと大きな差になってきて就労する力につながるのではなかろうか。
第三に,年齢の要素も考慮する必要がある。筆者は長年,乳児から中学生までの発達相談や教育相談を行ってきた。相談にあたっては,子どものもっている力としての学力や発達段階を踏まえながら家族の気持ちを受け止めることを心がけてきた。実際にはこれに年齢の要素が加わってくる。つまり発達の節目や変わり目の時期に起こりやすい変化がある。また,同じ主訴や行動にみえても3歳と6歳とでは問題も必要な支援も異なってくる。専門家としては,子どもは変わること,変わり目の時期があること,そして,この時期にはどのような変化が起こりやすいかなどをあらかじめ知っておくことで,支援における現実的な判断や見通しが少しは可能になるように思われる。
では,これらを保育・教育職等を目指す学生の養成教育や現職教育にどのように生かしたらよいのであろうか。日々考え続ける筆者の課題である。
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