平成30年9月1日
母乳の神秘的な恵
東京農業大学教授 本間 和宏この著者の書いた書籍
母乳は,健康な乳児にとって理想的な栄養食品であり,正常な発育に必要なすべての栄養素がバランスよく含まれ,生後6か月ぐらいまでは,母乳だけで育ちます。たんぱく質の濃度は,抵抗力の弱い乳児へ免疫物質を与えるために出産直後の母乳で高く,徐々に減少します。逆に脂質の濃度は,成長とともに増える乳児の活動量に伴いエネルギー消費量が増加するため,それを効率よく賄うため徐々に上昇します。
さらに神秘的な恵として,一回20分ぐらいの哺乳(授乳)中でも,飲み初めと飲み終わりでは味が変わります。初めは淡泊で飲みやすく,やがて脂肪の量が多くなって味が変わり,乳児に満腹感を与え,食欲を抑制する働きがあります。その間,たんぱく質量の変化はありません。
乳児の栄養についての研究課題のうち,主な構成成分であるたんぱく質・脂肪や乳糖についてはほぼ解明され,現在は,その他の成分に関心が高まっています。その一つであるカテキンについて紹介します。
母乳中には,ポリフェノールのカテキンが存在することが明らかとなっています。カテキンは,抗酸化能をもち,血中コレステロール濃度上昇抑制,脂質吸収抑制,血糖上昇抑制,血圧上昇抑制などの様々な生理活性作用を示すことが判明しています。さらに近年,お茶に多く含まれるカテキンの機能性に関する研究が盛んになっており,がん抑制,アレルギー症状緩和,生活習慣病予防,骨粗鬆症予防などの効果や,神経細胞の保護・成長促進効果に関する報告もされ,特定保健用食品に多く用いられています。
ヒトでは合成することはできないカテキンは,母親が摂取した食物中や腸内細菌により生成され,母乳を通して乳児が利用します。
母乳中のカテキン濃度は,茶に比べ微量ですが泌乳経過(出産直後からの授乳の経過日数)による変動は認められず,母親の食事に多少影響を受けるようです。
日本人女性は嗜好飲料類の中で緑茶を最も多く飲む習慣があり,カテキンの効果を多くとり入れていると考えられます。しかし,覚醒作用や利尿作用を有し身体に変調をきたすことがあるカフェインを含んでいる緑茶は,乳児への影響が懸念され,授乳期の摂取を制限されてきました。近年は,カフェインレスの緑茶が市場に出てきましたので,母乳を通して乳児にカテキンの効果を期待できるようになってきました。
母乳中のカテキンは,いまだ未知の部分が多く,今後のさらなる研究により,神秘的な恵みが解明されることを期待しています。
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