令和2年1月1日
多職種連携による栄養ケアの課題
国際医療福祉大学大学院 教授 石山麗子この著者の書いた書籍
栄養への配慮は健康な人はもちろん,要介護者や障害のある人にはそれぞれの状態に応じた専門的な内容が求められる。わが国では,高齢化の進展により要介護高齢者数も増加し,「栄養の確保」などの記述がケアプランに位置付けられることが珍しくない。栄養ケアマネジメントにかかわる生活を背景とした評価には,対象者本人と家族の意向とともに,より多角的な視点や対象者に長くかかわる専門職からの情報が有用であり,栄養ケアを軸にした多職種連携への要請が高まっている。
一般に多職種連携においては,異なる専門性をもつ職種が協働することで,より包括的なケアを効率的・効果的に提供し,自立支援に向けた相乗効果を生み出すことが期待されている。
一方,それぞれの職種を位置付ける法律,養成教育,介入目的,報酬体系等の違いがあり,共通言語や知識を持ち合わせているわけではない。そのため,連携する過程で職種間のコミュニケーションに課題が生じ,本来期待する相乗効果が得られないことがあるばかりか,相互にストレスを感じ,その後の連携関係に陰を落とすことにもなりかねない。多職種が栄養に関する共通の知識や言語をもつことは,栄養ケアの可能性と効果をさらに高めることにつながるのである。
介護保険や障害福祉サービス等の介護報酬改定では,栄養ケアに関する評価が進んでいる。報酬上の評価が拡充される目的は,対象者の尊厳が保持され栄養改善とQOLの向上を実現することである。報酬での評価が存在することで,人材確保や経営基盤は安定化していくかもしれないが,人材配置,計画作成などの外形的な算定要件を満たすことのみで栄養ケアが成功するとは限らない。
多職種に共通した栄養ケアの研修が報酬算定に先んじて義務づけられておらず,知識の習得は,個々の事業所や専門職に委ねられているのが現状である。また現在,財政面などの理由により評価の対象となっている専門職は,医師,歯科医師,管理栄養士等に限られいる。栄養ケアマネジメントは本来,身体面だけでなく,生活状況などの背景も関連することから,算定要件に含まれていない他職種との連携も必要なのである。
栄養ケアを行う目的は報酬算定ではない。対象者にとって,最善の栄養ケアを行う最適な職種構成と連携内容の検討,そして多職種が栄養ケアの目的や基本的知識と技術を共有する学習機会を協働してつくり,切磋琢磨し実践力を高めることが大いに期待されている。
もうひとつ忘れてはならないことがある。それは,介護は生活を支援することに直結しており,生活は家庭内の日常の連続であるということだ。その補完機能は家庭にある。介護保険制度の施行により,介護は社会化され,専門的ケアの提供と家族の負担軽減が実現されたという利点があった。一方で,専門職の家庭への介入は,家族や近所の見守りや手助け等を一斉に後退させたという反省もある。
人のつながりなど一度壊れたものを再生するのは容易ではない。専門職が「食」にかかわることで,意図せずとも対象者・家族の「食」にかかわる社会との交わりやつながりを途絶えさせることのないように留意することが必要である。
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