令和2年1月1日
保育者の日々の実践を支える「朝会」の機能
東京家政大学短期大学部 特任准教授 塚本美起子この著者の書いた書籍
都内公立A幼稚園では,毎朝,全職員が集まって行う「朝会」で,その日の保育について語り合う時間を大切にしている。
「朝会」では,各担任が1人3分程度,その日の保育の一番大事なところや,保育直前になってもなお迷っていることなどを話し,それを巡って他の保育者との短い議論がなされている。短時間であっても,保育直前にその日の実践のイメージを語ることで,担任はその日の保育への決意を固めたり,迷っていることに対してアドバイスを得ることで解決し,保育に臨むことができる。また,他の保育者にとっても保育理論の確認や協働につながりやすい。
例えば,6月の小雨模様の日のこと。4歳児担任のA保育者がその日の保育構想について次のような迷いを伝えた。
A保育者は,前日,初めてシャボン玉を出したら子どもたちが喜んで遊び,中にはまだ吹き方がわからない子もいたので,今日も続きを楽しみたいと思っていた。しかし,雨が降りそうなのでシャボン玉は出来ないのではないかと悩み,室内遊びに切り替えようと考えていることを語る。これに対してB保育者は,A保育者の悩みを共有した上で,「雨が降りそうな日は湿度が高く,シャボン玉がよく膨らみ,風もあるからシャボン玉がパ~ッとよく飛んで楽しくなる」と,具体的な遊具なども例示しながら自らの経験を話した。すると,同じ4歳児担任のC保育者が「楽しそう!」と言った。A保育者も,小雨程度ならシャボン玉はできそうだという見通しがもてたことで,B保育者と一緒にシャボン玉遊びの準備をして子どもたちを迎えた。結果は,登園した子どもたちはシャボン玉に興味をもって遊び始め,霧の中をたくさんのシャボン玉が飛び交っていた。子どもたちは,夢中になって飛び交うシャボン玉を追いかけ両手で割ろうとしたり,シャボン玉の間をくるくると回ったり,次々とシャボン玉を飛ばして遊んだ。2人の担任も共に楽しんだ。
保育者が日々の実践において保育理論や目指すべき方向は理解していても,状況の変化に対応する具体的実践が構想できずに葛藤するということはしばしば起こりうる。「朝会」という,保育直前にその日の具体的実践のイメージを話題にし,より具体的に考え合うことで得た情報は「やってみよう」という行いにつながりやすい。そして,実際にやってみることで,保育者自身が手応えをもち,新たなシャボン玉の魅力や子どもにとってのシャボン玉の楽しさについて理解を深め,保育理論の確認にもつながっていく。それは,A保育者だけでなく他の保育者にも共有され,ストックされていくと考える。つまり,発信した保育者の葛藤は,本人だけでなく参加している他の保育者の理論の確認にもつながり,園の保育者間の「協働性」を高めることにもつながるのである。保育者の実践を支える機能をもつものとして,「園内研究」に加え「朝会」についても検討したい。
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