建帛社だより「土筆」

令和3年1月1日

園と外国籍保護者の相互理解と信頼関係形成に向けて

福岡教育大学名誉教授  田中敏明この著者の書いた書籍

 ま,日本の幼児教育・保育は,質の低下,保育者不足など多くの課題を抱えている。その中で意外と知られていないのが,外国籍の幼児や保護者に対する対応である。現在,日本の園に10万人強いると推定される外国籍の幼児や保護者への対応や支援については,あまり関心が払われていない実情がある。

 児が園で快適に過ごし成長していくためには,園と保護者が相互に理解し,保護者が保育者を信頼することは重要な条件のひとつである。それは,日本で生活する外国籍の幼児が,日本という国を好きになることにもつながっていく。

 くの園が,外国籍の幼児や保護者,特に保護者の対応に,戸惑いと困難を感じている現状がある。幼稚園,保育所,認定こども園の保育者を対象に調査したところ,多くの戸惑いや困難が記述されていた。

 別すると「保護者とコミュニケーションが取れない」「文化,価値観の違いから,食事,服装,園の活動,ルールなどでトラブルが起きる」「園の方針を理解してもらうのが難しい」の3つに集約される。具体的には「コミュニケーションに時間がかかる」「うまく伝達ができない」「要求がわからない」「園のしつけ方や,登・降園時間,服装などのルールを理解してもらうことの困難さ」「日本の文化や常識がわかってもらえない」など多様であるが,中でも給食の内容や方法,お弁当の持参,保育行事のこと,園の決まり事に関する戸惑いが目立つ。

 れらの戸惑いの背景には,宗教や文化の違いがある。「行事の意義をわかってもらえない」「日本独特の行事の説明に困った」「運動会の意味がわからなかったようだ」「正座を嫌がられた」「節分で鬼が出てきて怖がらせるのはどうかといわれた」など,行事を理解してもらうことの困難さも,その背景にあるのは宗教や文化の違いである。

 決策として,●翻訳アプリを使用する,●保護者の母国語ができる人に説明をお願いするなどはもちろんのこと,●漢字圏の保護者とはやり取りにあえて漢字を用いて意思疎通を図る,●保育や生活に必要な言葉を調べて表をつくり,それを用いてやり取りする,●国別に言葉の表をつくり,やり取りに必要な単語をお互いに持ち合うなど,努力も行われているが,宗教や文化を乗り越えての相互理解は難しい状況である。

 の結果,外国籍の幼児を積極的に受け入れたいという園は,調査対象の15%程度にとどまり,できるだけ受け入れたくないという園がかなりの数に達する。7割前後の園は「保育方針を理解し受け入れてもらえるなら受け入れる」など,消極的な姿勢である。

 ローバル化が進む今,この問題の解決が急がれる。円滑なコミュニケーション手段を確立しながら,園における日本的な保育のよさを伝えるとともに,かたくなに日本のやり方を押しつけるのではなく,保護者の立場に立った受容と寛容の姿勢が求められるのではないだろうか。

目 次

第113号令和3年1月1日

全記事PDF