令和3年9月1日
「答申」から読む日本の学校教育の未来
福山平成大学教授・学長補佐 古賀一博この著者の書いた書籍
令和3年1月26日,文部科学省中央教育審議会は「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~」と題する新たな答申を発表した。本稿では,答申が提案する「個別最適な学び」と「協働的な学び」から今後の学校教育の未来を展望してみたい。
「個別最適な学び」とは,従来指導する側からの視点として示されてきた「個に応じた指導」を学習者の視点から整理し直した概念である。
具体的には,支援が必要な子どもにより重点的な指導をし,子どもの特性や学習進度等に応じ,指導方法・教材等の柔軟な提供・設定を行うなどの「指導の個別化」と,子どもの興味・関心等に応じ,1人1人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで,子ども自らが学習を最適となるよう調整する「学習の個性化」をあわせもっている。そのため,この学びには「これまで以上に子供の成長やつまずき,悩みなどの理解に努め,個々の興味・関心・意欲等を踏まえてきめ細かく指導・支援することや,子供が自ら学習の状況を把握し,主体的に学習を調整することができるよう促していくこと」とある。そして,ICTを活用し,学習履歴や生徒指導上のデータ,健康診断情報等の利活用,教師の負担を軽減することが重要であると説いている。
その一方で,「個別最適な学び」が「孤立した学び」とならないよう,「協働的な学び」を充実させることも重要であるという。
これは,「探究的な学習や体験活動等を通じ,子供同士で,あるいは地域の方々をはじめ多様な他者と協働しながら,あらゆる他者を価値ある存在として尊重し,様々な社会的な変化を乗り越え,持続可能な社会の創り手となることができるよう,必要な資質・能力を育成する」ことである。その際,集団の中で個が埋没してしまわないよう,1人1人のよい点や可能性を生かすことで,異なる考え方が組み合わさり,よりよい学びを生み出すことが大切であるとも述べている。
さらに,この学びの中で知・徳・体を一体的に育むためには,①教師と子ども,子ども同士のかかわり合い,②自分の感覚や行為を通して理解する実習・実験,③地域社会での体験活動など,様々な場面でのリアルな体験を通じて学ぶことの重要性が,AI技術が高度に発達するSociety5.0時代にこそ一層高まると指摘している。
また,「協働的な学び」においては,同一学年・学級はもとより,異学年間の学びや,ICTの活用による空間的・時間的制約を超えた他の学校の子ども等との学び合いも推奨している。
要約すれば,答申でいう「令和の日本型学校教育」とは,一人の子どもも取り残すことなく,全ての子どもたちの可能性を引き出すために,この二つの学びを「一体的に充実」させ,直近の学習指導要領で求められている「主体的・対話的で深い学び」を実現させた,いわば理想的な未来像と捉えることができよう。
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