令和3年9月1日
ICT化時代にこそ必要な介護職の判断力と創造性
帝京科学大学教授 柊崎京子この著者の書いた書籍
近年,介護分野では,介護サービスの質の向上や生産性向上のために,ロボット・AI(人工知能)・ICT(情報通信技術)等のテクノロジーを活用した改革がすすめられている。対人援助職に欠かせない3つのH(Head:冷静な判断や知識,Hand:技術,Heart:温かい心や態度)は人にしかできないと思われていたが,テクノロジーの進化が生み出す今後の次世代介護機器やICT活用は,3つのHこそが開発の原点になると思われる。そのような視点を踏まえた開発は,わくわくするような未来や,介護職が余裕と創造性をもって働く環境をつくり出すであろう。
一方,国は介護保険下で「科学的裏付けに基づく介護」として,「科学的介護情報システム(LIFE)」の活用を推進している。これは,自立支援・重度化防止等やケアの質を向上させるため,情報を収集・分析,その解析結果をエビデンスとして蓄積するものであり,現場にフィードバックして実践に活用することが目指されている。そのために,「科学的に妥当性のある指標等の現場からの収集・蓄積および分析」の仕組みづくりも同時にすすめられている。「科学的に妥当性のある指標」とは,情報収集する項目が状況を評価・判断するための指標としての妥当性を有し,測定可能な客観的データで,かつ国際的比較が可能なデータのことである。
2021年現在,介護事業所のICT普及促進を図る「ICT導入支援事業」が実施され,補助金が交付されている。ICT導入は,記録や情報共有の業務,保険請求業務の効率化につながり,現場の負担軽減に役立つ。なお,この支援事業はLIFEのデータ収集とも関連し,各事業所間で情報連携できるように標準仕様に準じたソフトを利用すること,LIFEによる情報収集に協力することが要件となっている。
以上のように介護分野では,ICTの利活用やLIFEが制度的に加速化している。これらは,将来的に介護保険制度下におけるケアマネジメントや,ケアマネジメントを踏まえて介護職が実施する「介護過程」に影響を与えるであろう。
介護福祉は介護サービス利用者の「日常生活の営み」(太田貞司,2020)の支援であり,介護過程は「利用者の望む生活の実現」に向けた実践を導くための思考過程・実践過程である。「日常生活の営み」や「望む生活」は個人によって異なる。LIFEによる「科学的裏付けに基づく介護」のシステム構築は,重要ではあるが人の生活はそれだけではない。
AIは支援内容を深化させるアセスメントに貢献するだろう。しかし,人の生活には,個人によって異なる生活の彩りや願いなど,客観的指標がない測定不能なデータがある。それを含んで,アセスメントを根拠づけて言語化できることが介護職には必要である。
AIと二人三脚の未来は,介護職の判断力と創造性こそが実践の鍵である。支援内容は与えられるものではなく,判断し創造していくことで効果的な実践となる。
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