より専門性の高い公衆衛生テキスト。管理栄養士国家試験ガイドラインの改定に対応し,「社会的公正」「SDGs」等について加筆したうえ,疫学情報や統計・法令を最新知見に更新した第4版。
内容紹介
まえがき
三訂版まえがき
「人」の健康に注目して問題を解決しようとするとき, 2 つの方法論がある。ひとつは個人を対象としたものであり,もうひとつは人の集団の健康を対象とする公衆衛生学である。本書は後者の公衆衛生学の教科書として編集されたものであり,管理栄養士国家試験における「社会・環境と健康」に相当するものである。
「社会・環境と健康」の教育目標を簡潔に要約すれば,「人」の集団としての健康状態を把握し,その健康に対する社会・環境の影響を評価するための方法論(疫学)を学び,疫学によって明らかにされてきた社会・環境や人間の行動特性を理解し,その上にたって行われるさまざまな健康政策・保健対策の現状と問題点を理解することである。また,健康政策・保健対策を実施するための制度や法的基盤についても学ぶこととなっている。
2009年に初版の構成を見直し改訂版を発行したが,それ以来さらに 5 年が経過し,その間国家試験ガイドラインの改定もあり,内容・構成ともに全面的に見直し三訂版として発行することになった。
公衆衛生学領域は,保健関連の多くの統計情報,また,健康政策・対策や医療・福祉・介護の制度を取り扱うため変化の激しい領域であるが,単に最新の数値に差し替えるということではなく,各分野の専門家に執筆をお願いし,最新の知見をもとに多くの章で全面的に稿を改めている。
例えば,従来版で健康政策としてまとめていた部分を,生活習慣(ライフスタイル)の現状と対策(第 5 章),主要疾患の疫学と予防対策(第 6 章)として分割し,疾患別の疫学的知見も最新のものに改め整理した。このほか情報の取扱い方にも触れ,変化の激しいこの分野で,公衆衛生の現状を正確に理解するとともに,栄養の専門職として最新動向をフォローできるよう配慮した。公衆衛生マインドをご理解いただくことを期待している。
最後に,改訂に当たって寛容と忍耐の精神で編者を叱咤激励していただき,何とか刊行できるようお骨折りをいただいた建帛社筑紫恒男社長ならびに編集部の諸氏に心より感謝申し上げる。
2014年 4 月
伊 達 ち ぐ さ
松 村 康 弘
三訂第4版刊行にあたって
2014(平成26)年に内容・構成を大きく見直し三訂版として以来,法令等の改正や管理栄養士国家試験出題基準の改定に対応し,その時点での最新知見を取り入れながら,第 2 版,第 3 版と版を重ねてきた。
今回,2019(平成31)年公表の管理栄養士国家試験出題基準の改定にともない,「社会的公正の概念」「健康格差」「利益相反」「建築物衛生」「がん登録」「難病」「持続可能な開発目標(SDGs)」等,多くの新たな項目について加筆し,第 3 章の「疫学」についても構成を大きく改め第 4 版とした。
本書が,管理栄養士をはじめとするみなさんにとって,栄養等の関連分野において変化の激しい公衆衛生の理念を正確にとらえ,最新動向を把握する際の一助となれば幸いである。
2020年 6 月
伊 達 ち ぐ さ
松 村 康 弘
初版まえがき
21世紀における栄養士のあるべき姿が議論され,法律(栄養士法)を改正して新しい管理栄養士の役割が明確にされた。それに伴って,管理栄養士として必要な知識および技術が系統的に修得できるようにカリキュラムの体系化が図られた。このカリキュラム改正に当たっては 5 項目の基本的な考え方に立って検討が進められた。その中のひとつに,「公衆衛生を理解し,保健・医療・福祉・介護システムの中で,栄養・給食関連サービスのマネジメントを行うことができる能力を養うこと」という項目が挙げられており,公衆衛生を理解することは,管理栄養士にとって基本的事項であるとの認識が示された。
医学教育における公衆衛生学は“基礎科目”と“専門科目”の架け橋的な位置にある。すなわち,基礎科目を習得して専門的知識もある程度理解できるようになってから提供される科目である。公衆衛生学は,医学の分野で唯一人間集団,生態系を対象とする学問であり,医学知識が必要とされるものである。管理栄養士教育においては,示された教育目標から考えると公衆衛生学は「社会・環境と健康」に該当する教科目であるが,「社会・環境と健康」は“専門基礎分野”に位置付けられているので,“基礎”に着目して養成課程の比較的早い時期に開講される可能性も高い。上述のように医学知識が必要とされるにもかかわらず,その知識が修得されていない時期に公衆衛生学を学習する場合には,知識の不足を補うための教科書や参考書が重要な役割を果たすであろう。
本書の著者陣は,担当分野で今まさに活躍中の“旬”の専門家である。そのため,本書の内容は最新のものであり,非常に深い部分まで書き込まれている。内容は管理栄養士国家試験ガイドラインと照らし合わせ,公衆衛生学で教えるべきと考えられる部分は網羅されている。内容が深いため, 1 年生の授業で使用するには少々取っ付き難い感は免れないかもしれない。しかし,これからの管理栄養士は保健医療サービスの担い手として,医療・保健の場において他職種との協同作業が求められている。医師,保健師,看護師などと遜色のない公衆衛生学の考え方と知識を修得した管理栄養士が養成できることを念頭において,本書は編集されたものである。低学年で履修しなければならない場合にも,平易な内容のものではなく,専門性の高い内容の教科書や参考書を利用して高度な専門知識を身につけ,高学年になってから再度本書を読み返してより深く理解するという学習法をお勧めしたい。
社会から求められている高度専門職としての管理栄養士に育つためには,この程度の内容は最低必要であろうというものはすべて含む,その結果少々難しいと思われるような内容であってもかまわない,という信念で本書の出版に当たられた建帛社筑紫恒男社長には大変なご支援を賜った。心より感謝申し上げる。
2003年 4 月
伊 達 ち ぐ さ
松 村 康 弘
目 次
第1章 公衆衛生の意義
1.健康の定義
2.公衆衛生の定義と目的
3.社会的公正と健康格差の是正
4.公衆衛生の歴史
第2章 人口・保健統計
1.保健統計の意義
2.人口静態統計
3.人口動態統計
4.生命表
5.傷病の統計
6.その他の保健統計
第3章 健康状態・疾病の測定と評価
1.疫学の概念
2.疾病頻度の測定
3.曝露効果の測定
4.疫学研究方法
5.バイアス,交絡の制御と因果関係の判定
6.スクリーニングと診断検査
7.根拠に基づいた保健対策
8.疫学研究と倫理
第4章 環境と健康
1.生態系の中の人間生活
2.環境汚染と健康
3.生活環境-環境保健-
第5章 生活習慣(ライフスタイル)の現状と対策
1.健康に関連する行動と社会
2.身体活動・運動
3.喫煙行動
4.飲酒行動
5.睡眠・休養・ストレス
6.歯科保健行動
第6章 主要疾患の疫学と予防対策
1.が ん
2.循環器疾患
3.代謝疾患
4.骨・関節疾患
5.感染症
6.精神疾患
7.その他の疾患
8.自殺,不慮の事故,虐待
第7章 保健・医療・福祉の制度
1.社会保障の概念
2.保健・医療・福祉における行政のしくみ
3.医療制度
4.福祉制度
第8章 保健対策
1.地域保健
2.母子保健
3.成人保健
4.高齢者保健・介護
5.産業保健
6.学校保健
7.国際保健
第9章 情報の入手と取扱い
1.情報をどのように集めるか
2.情報をどのように扱うか
資 料
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