まえがき

　本書は，フードスペシャリスト養成課程における食物学の教科書として編纂されたものである。フードスペシャリストは，食の本質を「おいしさ」「楽しさ」「おもてなし」に置き，食に関する幅広い知識と技術を身につけ，食品の開発製造，流通，販売，外食などを担う食品技術者としての活躍を目指した資格である。しかしながら，従来よりの食物学の教科書は，栄養士，管理栄養士養成課程における「栄養」に重点を置いたものや，農学関係の生産の視点からのものであり，フードスペシャリスト養成の理念には必ずしも合致しないものであった。

　2014（平成26）年に制定されたフードスペシャリスト養成課程コアカリキュラムにおいては，教育内容および教育目標として，フードスペシャリストは，食品や食物に対する広範かつ正確な理解と知識が要求されるが，食物学はその基礎となるものであるとしている。そのうえで，食物学では，食品を構成するさまざまな成分がいかなるもので，どのような機能を有するのかを理解すること。また，食品は食物として供されるまでに，流通や貯蔵，あるいはさまざまな加工や調理の過程を経ることから，それらの過程における技術的な問題や成分変化なども，重要な対象事項となるとしている。すなわち，「食物学に関する科目」では，これらの内容を系統的，網羅的に学ぶべきとし，コアカリキュラムの内容を以下のように規定している。

１．「食品の分類と食品成分表」では，多種類の食品を体系的に把握することに加え，日本食品標準成分表を正確に理解し活用することを目指す。

２．「食品成分の構造と機能の基礎」ならびに「食品成分の変化」では，水，炭水化物，たんぱく質，脂質，ビタミン，無機質，食品酵素，嗜好成分その他について，構造，性質と所在，機能，成分変化など，食品を理解するうえでの基礎を修得する。

３．「食品加工法の原理」ならびに「食品材料と加工食品」では，加工技術の原理を把握したうえで，食品材料の分類と種類，性状と形態，成分特性と機能，加工食品について学び，フードスペシャリストの基盤的な知識を修得する。

４．「食品貯蔵･流通技術」では，食品の高度な品質保持技術や個別食品の貯蔵･流通技術を修得し，フードスペシャリストの業務への応用を目指す。

５．「食品機能学」では，特定保健用食品や栄養機能食品など，急速に拡大する保健用途食品についての知識を深め，フードスペシャリストの業務への応用を目指す。

　本書はこれらを踏まえ編纂されており，『食物学Ⅰ』では上記項の食品成分表に関する章ならびに，項および項について取り上げたものである。また，『食物学Ⅱ』においては上記項の食品の体系的な把握ならびに２項および５項について取り上げている。

　これらの内容は非常に多岐にわたるものであり，編集上において各項の内容の範囲や難易度等の均衡をとることが至難ではあったが，多くの著者の方のご協力により，2017（平成29）年に本書の初版が完成した。そして，2020（令和2）に公表された日本食品標準成分表2020年版（八訂）の内容を反映し，その他記述の一部を見直す形で，このたび第２版として発行した。至らぬ点があればご意見・ご指摘をいただけると幸甚である。

　また，本書の企画と出版に多大なご尽力を賜った株式会社建帛社の編集ご担当者の方々に深謝申し上げる。

2021年２月

責任編集者識