数値データの合理的な処理方法,統計的分析手法に重点を置き,データ解析をエクセルを用いて説明。人間集団の健康データを中心に,栄養・保健学学生等を対象とし,実践的な例題を通じて演習していく。
内容紹介
まえがき
はじめに
現代では,ICT(電子通信技術)の進歩により,多くの人が数値,文章,画像,動画,記号など様々な情報を容易に収集し,電子媒体に保存できるようになっている。これらの情報は多種多様で,収集や発信の目的が不明確なものも多い。しかし,何らかの明確な目的を持って情報を利用しようとする場合には,情報の収集から分析,解釈までの全プロセスが合理的であることが求められる。本書では,この合理的プロセスのことを情報処理と呼ぶ。
情報処理の対象となるデータは,適切な分析を通じて有用な情報となる。すなわち,様々なデータを人間が使える情報とするために情報処理が必要となる。広い意味ではデータの収集から始まり,分析および分析結果の解釈までが情報処理に含まれるが,本書ではデータの分析方法に重点を置くことにする。
情報処理で扱うデータが数値の場合,その分析においては統計学が有力な方法論となる。特に数値データが観測や測定によって得られる場合には,統計的方法は必要不可欠である。本書では,統計的方法を用いて数値データを分析することを統計情報処理と呼ぶこととする。数値データの解析に統計的方法を用いる主な理由は,次の通りである。
まず,観測されたデータには必ず誤差が含まれるが,とりわけ人間集団を対象とした場合は非常に複雑な原因により誤差が発生する。誤差は偶然誤差と系統誤差に分かれ,統計学はこれらに対応する理論と方法を提供している。系統誤差の原因を探るには偶然誤差を分析に取り込む必要があり,大部分の統計的方法においてそのような偶然誤差を含めた分析モデルが使われている。また,観測データの多くは母集団の一部から取り出された標本データであり,統計学は,標本から母集団の状況を推測するための方法(推測統計,分析統計などと呼ばれる)が中心となっている。一般に,推測統計を行う前には,データの特徴を表現するための記述統計が有用であり,それはグラフ作成や指標の計算などを含んでいる。行政や一般事務では記述統計が多くの役割を持っており,その方法を学ぶことも重要である。さらに,観測データの多くは複数の変数から成り,そうした何種類ものデータの間に存在する複雑な関係を理解するには,多変量解析が有効である。統計学はこのような複雑な現象を取り扱う際にも,客観的かつ科学的な方法論となりうる。 本書は,特に人間集団の健康事象を観察して得られる数値データを取り扱うことを主題としている。人間集団の健康にかかわるデータを取り扱う統計学は,生物統計学,保健統計学,健康統計学などと呼ばれる。その分析結果は健康増進や疾病予防などのエビデンスとして用いられる。本書は,『疫学・健康統計学』(建帛社)の内容と関連しつつ,実際に読者がデータ解析を実行できるようになることを目標として書かれた。また,計算手段の一つとして,現時点では最も広く普及している「Microsoft EXCEL」(以下,Excel)を用いて基本的な統計計算ができるように,多くの例題を取り上げた。読者としては,人間集団のデータを扱う機会の多い栄養士・管理栄養士,保健学や栄養学を学ぶ学生・大学院生,保健に関わる技術者・行政職員などを想定している。数学的な表記は最小限にとどめ,わかりやすい表現になるように努めた。また,できる限り多くの例題を通じて計算ができるように心がけた。
本書は,6章により構成されており,第1章では,データ入力やデータの種類について,第2章では,Excel を使った基本的な計算方法について取り扱う。第3章と第4章では,Excel の基本的機能を使った記述統計の具体的方法について述べる。第5章では,主に分析ツールを使った分析統計として,区間推定,検定,回帰分析などについて述べる。第6章では,とくに健康にかかわる諸指標についてデータ分析の方法を述べる。また,付章では統計解析のフリーソフトである EZR についても少し紹介している。
統計学は,数学的な理論をもとにして成り立っているが,応用科学としての性格を持っている。すなわち,統計学は現実世界の様々な問題解決に適用されることで大きな意味を持つ。本書を通じて,多くの読者が統計的方法を実際のデータ分析に活用できるようになれば幸いである。
2024 年8月
著者を代表して 緒方 裕光
目 次
第1章 データを入力する
1.データの種類
2.データ入力の基本的形式
第2章 簡単な計算をする
1.四則演算および関数の使い方
2.セルの参照
第3章 データをまとめる
1.変数の単純集計(量的変数)
2.変数の単純集計(質的変数)
3.2変数のクロス集計
第4章 グラフを描く
1.1変数の可視化(量的変数)
2.1変数の可視化(質的変数)
3.2変数の関係性の可視化
第5章 データを分析する
1.分析ツールの使い方
2.区間推定
3.仮設検定
4.相関と回帰
第6章 応用編:健康にかかわる指標の計算
1.年齢調整死亡率の計算
2.暴露効果の測定
3.スクリーニング
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