平成20年1月1日
最近の栄養学と食糧を巡る話題
栄養改善普及会会長 五十嵐 脩この著者の書いた書籍
2008年度からの生活習慣病,特にメタボリックシンドローム予防のための特定保健指導の義務化に伴う検診と保健指導制度が,どの程度実際に行われ,浸透し,効果を上げるかどうかは不明であるが,現在の医療が治療から予防への視点を取り入れようとしていることは時代の流れであろう。このことは栄養学の分野でも「未病」という視点での取り組みがより重要になってきたことを意味するのであろう。
さて,最近の栄養学の新しい話題をわかりやすく解説していくことが栄養に関連する仕事にかかわっている人々に必要であることはいうまでもない。なぜかといえば,栄養学を取り巻く学問には疫学的な研究から分子栄養学,食品に含まれる新規物質の生理機能など幅広い学問分野が含まれているからである。
こうした学問分野の新しい進歩を幅広く理解するためには,米国の国際生命科学協会(ILSI)が4,5年おきに出版してきた『最新栄養学』のような出版物は,自分の専門外の分野での最新の成果を理解するうえで使いやすい総説集である。今回建帛社より出版された『最新栄養学 第9版』は,最近注目されているバイオティクスから2000年以降栄養素毎に数冊に分けて出版されたアメリカ・カナダでのDRIsの最新版も網羅しており,その意味でも新しい視点での総説集であるともいえる。
私自身もこの翻訳にかかわってきたが,昨年の4月からは社団法人栄養改善普及会の仕事を行っていて,国民自身の栄養や食生活についての自覚を高める運動がきわめて重要であることを改めて認識させられた。これからもこうした視点での栄養,食品についての知識の普及に尽力していくつもりである。
一方,最近の食糧を巡る状況をみると,これまでの世界各地からの食材の輸入が数量も十分に確保できた時代から世界的な食糧供給の不安定な時代を迎え,栄養のみならず,食糧の安定供給についても国民的な視野での取り組みが必要な時代へと突入した。テレビや新聞で報じられているように,いろいろな食品の価格の改定が行われ,低価格で食糧を安定供給することが不可能な時代を迎えつつある。
この原因の一つに食糧資源をガソリンなどの燃料に転用する問題がある。バイオエタノールなどといってもてはやされているが,元来食糧はヒトの食べ物と動物への飼料として利用すべきであろう。海外からは,日本はバイオエタノールの研究をするよりは,自動車の動力源として電気や水素などの効率的な利用を含めた実用的な研究を進めるべきであるという意見も出されている。こうした意見も取り上げてエネルギー問題を考えたほうが日本の技術力に合っているような気がする。
このように,栄養の問題は単に食糧をきちんと供給すればすむという問題ではなく,経済や社会のあり方とも,複雑に絡まった問題をはらんでいる。ここ2年間ほどの原油価格の高騰は,日本の食生活をさまざまな面から直撃しこれからの日本人の食生活のみならず,生活全般に多大な影響を与えるであろうし,栄養の確保といった面にもじわじわと影響を及ぼすことが懸念される。
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