平成20年1月1日
心身の状況に応じた介護
(財)日本介護福祉士会副会長 東洋大学講師 柴田 範子 この著者の書いた書籍
2007年11月28日,20年ぶりに社会福祉士及び介護福祉士法等の一部を改正する法律案が参議院本会議で可決・成立した。一度,参議院厚生委員会を通った経過があったが,ねじれ国会とはよく言ったもので,年金問題など課題が山積する中,再度参議院を通り,ようやく2012年4月1日に一部を除き施行される運びとなった。一部改正のその中で注目される点は,介護福祉士の「介護」を「入浴・排せつ・食事その他の介護」から「心身の状況に応じた介護」に改めることであり,その意義は大きい。
20年前に法律をつくったときと介護の現状は大きく変化していることから,一人ひとりのその「心身の状況」を見極め,その「状況に応じた介護」を,介護福祉士は目指すべきだと説いている。心身の状況に応じた介護が必要になったとき,当然,生活者として三大介護「入浴・排せつ・食事」は欠くことのできないものである。ただ,ここで言わんとしていることは,その人のこれまで生活してきた道・気持ち・意欲・今の様子を見極め,その人のことを気にかかる存在としてとらえ,できることは温かく見守り,生活するうえで不自由に思っているところに手を添えさせてもらうことである。その後に続く「その他の介護」が,生活の中で継続されていく三大介護などの隙間にある「その人のことを気にかけている」大切な視点のひだなのかもしれない。「心身の状況に応じた介護」は,その人をよく知ること,目の前にいるその人だけでなく,これまでのその人を知る努力をすることが大切なのである。
以上のことが『私は三年間老人だった』に紹介されている詩や,グループホーム登別館の宮崎直人氏作成のDVD『一人の心を見つめるケア』から十分に感じ取れる。
何が見えるの,看護婦さん,あなたには何が見えるの
あなたが私を見る時,こう思っているのでしょう
気むずかしいおばあさん,利口じゃないし,日常生活もおぼつかなく
目をうつろにさまよわせて
食べ物をぽろぽろこぼし,返事もしない(略)
でも目を開けてごらんなさい,看護婦さん,あなたは私を見てはいないのですよ
私が誰なのか教えてあげましょう,ここにじっと座っているこの私が(略)
私は十歳の子供でした。父がいて,母がいて
きょうだいがいて,皆お互いに愛し合っていました
十六歳の少女は足に翼をつけて
もうすぐ恋人に会えることを夢見ていました(略)
いま私はおばあさんになりました。自然の女神は残酷です(略)
年月はあまりに短すぎ,あまりに速く過ぎてしまったと私は思うの
そして何ものも永遠ではないという厳しい現実を受け入れるのです
だから目を開けてよ,看護婦さん―目を開けて見てください
気むずかしいおばあさんではなくて,「私」をもっとよく見て!
「心身の状況に応じた介護」について,さらに一歩深めて「介護の原点」を伝えてくれる詩やDVDなどに目を通す機会をもっともってほしいと願う。
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