建帛社だより「土筆」

平成22年9月1日

「官能評価士」制度の発足と今後の課題

日本官能評価学会 会長 首都大学東京 教授 市原 茂この著者の書いた書籍

 本官能評価学会は1996年11月に発足した若い学会で,会員の専門分野は,食品系が多く,ほかには,衣・住・心理学・工業デザインなど,多岐にわたっている。日本では,官能評価手法が,諸外国に比べて,工業デザインなど食品系以外の領域にも積極的に取り入れられている。



 日本官能評価学会会長の山口静子先生によれば,「官能評価とは人の五感(視覚,聴覚,嗅覚,味覚,触覚:体性感覚)によって事物を評価すること,およびその方法をさす」(『官能評価士テキスト』建帛社,2009)とされている。「五感を使って評価する」とあるように,会員の中には,味覚以外の感覚の専門家も多く,活躍されている。



 た,当学会の特徴は,企業で官能評価の業務に従事している専門家と大学や研究所で官能評価の研究をしている研究者の人数が拮抗しているところである。



 業で官能評価を業務の中に取り入れている人も多いことから,当学会は,官能評価の手法などの基礎的な研究だけでなく,応用的な手法の開発や官能手法の普及,専門家の育成なども期待されている。



 こで,当学会では,専門家の育成と適正な官能評価の普及を目的として,正しい知識に基づく官能評価の実施および官能データの適切な解析・管理のできる専門家を認定する「官能評価士」認定制度を導入した。



 の制度の導入以前にも,当学会では,講習会の実施などで,官能評価の普及に努めてきたが,資格制度の導入は,これらの目的をより確実に達成してくれるものと考えたためである。



 「官能評価士」の制度について簡単に説明すると,「官能評価士」には,初級官能評価士・中級官能評価士・専門官能評価士の三段階の種別がある。そして,それぞれについて満たすべき前提条件などの規定があり,認定試験がある。初級官能評価士は,学会員でなくても資格を得ることができるが,中級官能評価士と専門官能評価士は,学会員である必要がある。



 して昨年度『官能評価士テキスト』が発行されたのを機に,初級官能評価士と専門官能評価士第一回の認定試験を実施した。



 回,認定試験を実施して感じたことの一つは,官能評価部門に力を入れて人員をたくさん配置している企業は,それほど多くはないということである。一人,あるいは,少人数で官能評価の炎を灯し続けているという受験者が少なくなかったことに驚かされた。そのような方たちに,今回の資格の付与が励ましになるのであれば,資格制度の導入の目的の一つはかなえられたのではないかと考えている。



 方,現在の試験制度が今のままでいいのかどうかについては,常に検証し,改善していかなくてはならないと考えている。

 

 た,当学会では,昨年度後半から企業部会をスタートさせ,勉強会を毎月一回開いているが,この部会活動をうまく利用することにより,資格を取得した人のアフターケアもできたらいいと考えている。



 の制度をよりよいものにし,官能評価に携わる方たちの力が十分に活かされる条件を整えるよう努力する所存である。皆様のお力添えをよろしくお願い致します。

目 次

第92号平成22年9月1日