平成25年1月1日
今この時代にこそ真の『教育』の力を
明星大学教授 岡本 富郎この著者の書いた書籍
2011年3月11日,東日本を大地震と大津波が襲った。そしてあろうことか,絶対安全といわれてきた,原子力発電所の爆発が福島で起きた。日本は,このときを境にして,根本的な在り方を考えざるを得なくなった。
一方,国内の自殺者が十年以上も3万人を超え,いわゆるワーキング・プアの問題,貧困家庭の問題がクローズアップされてきた。子どもの問題をみても,いじめられて自殺をした子どものことが今もなお報道され,ユニセフの調査で,OECD加盟25か国の子どもと比較して,日本の15歳の子どもが,2位の約3倍という高い数字で孤独を感じていることも発表された。社会,子ども共に,今や日本の先行きはまったく不透明である。
そこで改めて今後の教育の在り方を考えてみたい。「教育基本法」には「我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し」と書かれている。日本の子どもと社会,国の未来を切り拓くためには,何といっても「真の教育」を実現しなければならない。周知のとおり「教育基本法」第一条には,「教育の目的」が記されている。そこには「教育は,人格の完成を目指し」と書かれている。しかしこの「人格の完成を目指し」という文言はさほど教育現場,国民には意識されてはいない。私は「人格の完成」を次のようにとらえている。「完成を目指す」ということは,「人格が高まっていくこと」を意味する。そして「高まっていく人格」の目標としての内容は「他者と共に生きる愛である」と考える。
現在の教育は「生きる力」を重視して進められている。私はこの「生きる力」は「活力ある社会」を目指すための力であると認識している。あえていうならば「経済成長を目指す力」であるといってよい。「共に生きる力」というならば,もろ手を挙げて賛成するが,日本の現状を考えるとき,「生きる力」は「人格の完成を目指す」教育とはかけ離れていると思えて仕方がない。
これらのことを大学と絡めて考えてみたい。現在の大学は,就職競争に明け暮れているように思える。もちろん,学生が将来生きていくために,専門教育を受けて働く力を身につけることは欠かせない。だが「働くことの意味」を大学で私たちが教えなければ,現状を追認する教育に終始し,「他者と共に生きる人格の完成を目指す教育」から一層遠のいてしまう。
子どもの真の幸せと,この国を真によくしたいと考えるならば,今こそ「人格の完成を目指す真の教育」に立ち返る必要があると思う。物や金や便利さに左右されることなく,また,神経をすりへらす労働ではなく,助け合って,地域で楽しく共に生きるつつましい生活を,国民こぞって考えるときにきていると思う。これらは他人ごとではなく,学生に授業でどう伝えるかが大学人としての私に問われていことである。
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