平成25年1月1日
今、あらためて被虐待児童のケアを考える
埼玉県南児童相談所保護担当部長 茂木 健司この著者の書いた書籍
厚生労働省は,平成23年度に全国の児童相談所で対応した児童虐待相談対応件数を59,862件(速報値)と発表した。これは,統計を取り始めてから最高値を更新し,平成2年度の50倍以上,平成13年度の約3.4倍である。
大都市周辺部では,被虐待児童の保護先である児童養護施設や児童相談所一時保護所(以下一時保護所と略)が満床近い状態であるという。私が勤める一時保護所でも,虐待を受けた子どもたちが連日のように保護されてきており,保護の依頼があっても満床のため受け入れができないことさえもある。
一時保護所は,戦後の「孤児・浮浪児」に対して検疫,防疫(DDT撒布等)医療,衛生(入浴,理髪等)処置するとともに,衣服の給与及び給食をなしたうえ,身上調査および生活指導を行うために,七都道府県に1946年末には19か所設置された。生存権の保障として人間の最も基本的なニーズであるマズローのいうところの生理的欲求と安全欲求を満たすところとしての一時保護所であった。
今,一時保護所に保護されてくる子どもたちの多くが被虐待児童であるが,彼らも生理的欲求や安全欲求を満たされていない。例えば,食事であるが,さすがに飢餓状態の子どもはほとんどいない(実際には餓死寸前で病院に運ばれる子どももいる)ものの,その内容は,1日1~2食,コンビニ弁当やパンだけしか食べていないなど,成長期にある子どもにとっては決して十分な栄養が補給できるものではない。また,何か月も入浴していないといったことは少ないものの,親からきちんと入浴の仕方を教えられていないために,十分な清潔維持ができていない。さらには,テレビゲームや深夜テレビのために,不十分,低質な睡眠しかとれていない,などの生活実態である。
私たちは,このような劣悪な環境のもとに置かれた子どもたちに対して,「安全・安心」な生活を保障することを第一としている。栄養のバランスとのとれた十分な食事,十分な睡眠時間の確保と生活のリズム,毎日の入浴等衛生の確保を基本としている。被虐待児童が示す多くの「問題とされる行動」である衝動的,攻撃的,多動,反社会的な行動や無口,抑うつ的,反応の乏しさは,基本的な生活を保障することで相当解決されていくことを経験している。
被虐待児のケアのために,厚生労働省は様々な施策を次々と打ち出している。心理療法担当職員の配置,施設の小規模化・家庭的養育化,施設の一人あたりの居室面積の拡大と一居室あたりの児童数の引き下げなどの最低基準の改善などである。また,児童養護施設等の現場レベルでも保護児童に対する適切なケアスキルの向上等の研究と実践が行われている。
しかし,子どものケアの最も基本として,戦後児童福祉が基本としてきた衣食住の保障をおざなりにしてはいけない。今,一時保護される子どもたちに対して,基本である「衣食住」を大切にしているかどうかを確認することを私の日課としている。
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