平成26年9月1日
「女性活躍推進」への期待
文部科学省科学技術・学術政策局長 川上 伸昭この著者の書いた書籍
「土筆」第100号発刊おめでとうございます。
さて,安倍内閣は,6月24日にアベノミクス第三の矢の中核をなす日本再興戦略の改訂をしました。このなかで,残された10の重要課題の1つとして「女性の活躍推進」が取り上げられています。
日本はこれから急速な人口減少社会に突入していきます。これを控えて,最大の潜在力である女性の力を最大限に発揮できる環境を整えていこうというのが戦略の意図ですが,これによって,人の確保にとどまらず,多様な価値観や創意工夫をもたらし,社会全体に活力を与えることができるとされています。そして,具体的に,育児を支援するために数値目標を定めて必要な保育士の育成や再就職支援を行う,育児経験豊かな主婦などを対象に研修を実施して,子育ての支援員としていくといった施策を行っていくことが打ち出されています。
また,2020年に指導的地位を占める女性の割合を30%にするという目標を立て,その実現のために行動計画を求めていくということも検討されることになっています。ここに出された女性の活躍支援策は,これまでのものと比べて格段に具体的で,かつ総合的な内容となっていて,安倍政権の本気度を表すものになっています。
文部科学省でも,今年4月に女性職員活躍推進プログラムを決め,平成27年度の採用者の女性割合を40%以上とし,同年度末の管理職も10%とするという目標を立てて取り組むことにしました。昔から男くさいと思われる中央官庁も今,変わろうとしているのです。
これと併行して科学技術行政では,女性研究者の活躍の場を広げる取り組みをしているところです。現在,日本の女性研究者の割合は14%と主要国の中では格段に低い割合になっています。特に,企業での割合は8%と,極端に低い数字に留まっています。日本の産業構造がものづくり産業に偏っており,もともと女子学生が少ない工学部からの人材を多く採用しているために,割合が低いという分析がありますが,それだけでは説明のつかない問題であると思われます。企業の奮起を求めたいところです。
また,大学において職位が上がるにつれて女性の割合が低くなるということは日本ばかりでなく外国においても同様です。俗に言う「ガラスの天井」があると言わざるを得ません。英国でもアカデミックスタッフに占める女性割合が45%であるのに対して教授職は21%に過ぎず,強い危機感が示されています。
女性研究者の数や指導的立場にあるそれがなぜ少ないのか,その理由を聞いたアンケート調査があります。昨年,男女共同参画学協会連絡会が行ったものですが,その答えには,「家庭との両立が困難」といった想定できる理由の中に混ざって「ロールモデルが少ない」と指摘する声が少なからずありました。
これまで,出産などで研究を離れた女性の空白を補う人材の補充や復帰の支援といったライフイベントをやり過ごす施策に取り組んできましたが,女性のロールモデルとなる経験豊かな女性研究者を早くつくっていくことも大切だということになりました。指導的地位につく女性の割合を上げるという安倍政権の政策は女性研究者問題を考えるときにも有効な取り組みであるようです。
指導的立場にいる女性は,後輩にとって,キャリアパスを描く対象になるばかりでなく,キャリアプランに悩む女性のメンタル面でのサポート役としても期待されるようです。指導的地位への女性進出を歓迎していきたいと思います。
国立大学の保育施設設置状況の推移を表す統計によると平成25年には81%の大学に保育施設が設けられています。その5年前は29%でしたので急速な変化と言えます。人の入れ替えには時間がかかりますのでそういった環境整備の成果が女性研究者の数に現れにくいのですが,今後着実に増加していくことが期待できます。女性研究者の能力を存分に引き出し,日本の科学界の発展を加速していくべきであると考えます。
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