建帛社だより「土筆」

平成26年9月1日

2014年度診療報酬改定と摂食嚥下リハビリテーション

県立広島大学教授  矢守 麻奈この著者の書いた書籍

 2014年度診療報酬改定が施行されて,数か月が経過した。各施設で長期的影響が明らかになるには,半年から一年を要するだろう。

 語聴覚士に関連深い項目として,①回復期リハビリテーション(以下リハ)病棟の見直し,②認知症患者リハ料の新設,③急性期病棟へのリハ専門職の配置,④胃瘻造設前嚥下機能検査の評価,⑤経口摂取回復促進加算への専従言語聴覚士の配置等がある。言語聴覚士が急性期・回復期・維持期の患者に以前から行ってきた言語聴覚・認知・摂食嚥下リハの効果が認められ,普及が促進されるのは,ひとまず嬉しい限りである。

 かし,疑問点もある。例えば,①によって,週七日のリハ提供が義務づけ(施設基準1)/推奨(基準2)されたため,研修会・学会への参加が困難化しつつある。新しい知識・技能の習得や臨床研究への支障が生じないか。

 知症のうち多くを占める精神科病棟入院患者は,②の対象にならず,相変わらず必要なリハを適切に施行される機会が得られないのではないか。

 胃瘻造設時嚥下機能評価加算に関しては,検査だけでは不十分で,その結果に基づいた適切な摂食嚥下リハが,胃瘻造設「前後」に十分に行われる必要がある。ここでは施設の胃瘻造設件数を「50件未満/以上」に区分し,50件以上の施設では「35%以上の患者を一年以内に経口摂取のみ」に回復させることを条件づけている。

 経口摂取回復促進加算でも,「鼻腔栄養・胃瘻患者の35%以上が一年以内に経口摂取のみに回復」が要件としてあがっている(傍線筆者)。

 瘻造設50件以内/以上,経口摂取回復35%以上という数字は,関連学会の統計から推算されたようだが,原因疾患の特質の違い(例えば脳血管疾患と神経・筋変性疾患)などは十分考慮されたのだろうか。

 た,最長一年間摂食嚥下リハを行うことになるが,昨今,同一機関で一年間摂食嚥下リハを行えるのは外来診療が可能な施設・患者に限られる。病院機能分化が進んだ昨今,胃瘻造設と外来も含んだ集中的リハが可能な施設は,残念ながら全国的にもまだ極めて少数だ。このような施設が増加すれば患者にとって福音だが,現時点では,経口のみでの栄養摂取の可否は胃瘻造設・リハ病院退院後の摂食嚥下リハに依拠する場合が多い。他施設の実績によって胃瘻造設機関やリハ病院の診療報酬が規定されるなら,不合理だろう。

 らに,経口のみでの栄養摂取が指標とされているが,ミキサー食等嚥下調整食だけで必要栄養量・水分量を経口摂取するのは困難で,多くの場合経鼻胃管や胃瘻等代替摂取法による補填が必要だ。栄養サポートチームの活動が充実すると,かえってこの要件を満たさないのではないか。

 食嚥下過程の第一段階先行期は認知期とも呼ばれる。認知・摂食嚥下双方の機能を対象とする言語聴覚士として,関連職種と幅広く情報交換を行いながら,各機能に障害のある方に適切なリハを十分に施行できるシステムづくりに貢献できるよう,さらに研鑚を積み,臨床実態を情報発信する必要性を痛感する。

目 次

第100号平成26年9月1日

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