建帛社だより「土筆」

平成26年9月1日

世界の旅と食

東京聖栄大学教授  筒井 知己この著者の書いた書籍

 学の夏休みに,家族と海外の風物を見物するようになってから十数年が過ぎた。当初は8~10日程の旅だったが,近年は3~4日のことが多い。理由は,昔は大学で時間にゆとりがあったことと,愛犬も若く元気で,獣医に預けても体調を崩すことなく元気に帰ってきたからである。最近では大学も忙しく,犬も長期の宿泊では体調を崩すようになってしまった。

 日間程のツアーに参加していた頃,自由時間には暑さも気にせず町を駆け足で回り,食料品店やスーパーマーケットをのぞいた。トルコでは多数の野菜,果実等が売られていて,南部のアンタルヤのジャム専門店では,果実以外に野菜(ナス,スイカなど)や花のジャムを見つけた。スーパーマーケットでは日本同様,様々な食品が売られていたが,2~3L入りのヨーグルトを見つけ,いかにヨーグルトの消費量が多いかを知った。後で聞くと塩味で食べるという。日本のような甘い味のヨーグルトは食べないそうだ。

 ナトリア高原では小麦が栽培され,カッパドキアでは痩せた土地であるためワイン用のぶどうが栽培されていた。明け方,町に流れてくる礼拝の時を知らせるエザーンの声に,異国であることを痛感した。洞窟住居を訪問し,チャイ(紅茶)をごちそうになった。この国ではお茶でもてなすという風習が根づいており,日本との共通点を見た。部屋の片隅には,小さな機織り機が置かれていた。奥さんが何か月もかけて絨毯を織るそうだ。これが家計を助ける貴重な収入源になっているという。

 た,メキシコ・ユカタン半島のマヤの集落を見学したときには,木の棒を組み合わせた壁にヤシの葉をかぶせた家が建てられていて,家の周りは低い石組で覆われていた。庭にはバナナなどが植えられ,そこを豚や七面鳥が歩き回っていた。主食は畑でつくるトウモロコシで,この粉からつくった生地を焼いたトルティーヤを食べる。チチェンイツァの古代マヤ遺跡の神殿に刻まれた,感謝の意味を込めたトウモロコシの絵を見て感激した。

 年はアジアを中心に訪れることが多い。昨年はベトナム,その前は台湾,さらに香港,フィリピン(セブ),サイパン,北京,ソウルと手近な街を散策した。アジアの町の元気のよさを感じた。特に各地の市場が豊かで,多くの人でにぎわっていた。興味のある食材や独特の料理を見て歩くのだが,食材や衣類,雑貨が所狭しと並び,食べ物のにおいが漂い,日本の市場との違いを深く実感した。台湾の臭豆腐,北京の乾燥ヒトデ,ソウルの蚕のさなぎ等々,珍しいものも見たり口にしたりした。

 トナム・ホーチミンは,白色の瀟洒なホテルや教会など,フランス統治時代の建物が残っていてヨーロッパの町のたたずまいがあり,フランス料理のおいしい店が多数あるという。番地を告げてタクシーに乗ったが,店は見つからなかった。近いと思しきあたりを歩き回っていると,周りの人たちがあっちだよと指さし教えてくれた。アジアの人たちの優しさを感じた一瞬であった。

目 次

第100号平成26年9月1日

全記事PDF