平成27年1月1日
統一25周年のドイツで深刻な少子化と保育者不足
桜花学園大学教授 豊田 和子この著者の書いた書籍
東西ドイツが統一されてからちょうど四半世紀が過ぎる。この間,育児・保育分野での社会問題は,未だに少子化から脱却できず,急激な家庭外保育政策推進による保育者不足に直面している。ドイツの合計特殊出生率は,統一以来ずっと1.4~1.2で低迷し続け,2010年は1.39で,EU諸国の中でもスペインに続く最下群にある。最上位はフランスの2.01である。少子化解消のため,メルケル政権以来,大幅な子ども手当,両親手当,託児所の拡充などの努力をしてきた。だが,成果に繋がっていない。
中でも保育施策で注目されるのが,2013年8月以降,満1歳の誕生日を迎えたすべての子どもが託児のポストを請求できる,いわゆる「保育請求権」の施行である。従来のような個々の家庭をベースにした子ども・育児支援策ではなく,育児の公的責任を公示したのである。その結果,多くの州で,保育者不足の問題に直面している。
調査によると連邦全体で12万人の保育者不足(2014年7月26日付のヴェルト紙)がある。保育者一人当たりの担当幼児数は旧東独地域で平均6.3人,旧西独地域では3.8人。教育専門家は,3歳以下の場合,3人以下が理想と指摘する。また,新たに12万人の保育者を雇用するには年間50億ユーロが必要と見込まれており,労働組合は保育者の労働条件を盛り込んだ「連邦保育法」の導入を求めている。
このような状況にあって,論争の鍵は「保育の質」である。ドイツでは,安直な量的拡充は質の低下を招くことを最も危惧している。質の中核は,保育者の数だというのがドイツの論理である。そのため,保育者不足解消への見通しは甘くない。
ドイツの保育者は,社会教育分野の職業として位置づく。その学位等は多様である。二~三年制の専門学校ないしは高等職業専門学校卒で約80%程度,大学で社会教育学を修めた人が約10%,その他は訓練中・無資格者で占められる。養成教育で注目に値するのが,実習の多さである。二~三年制学校では週3~5日間の実習が毎学年半期を占める。また五年制大学では後半の二年間の実習を経て,自己の職業選択をするしくみとなっている。
したがって,ドイツでは日本のように離職率が少ない。実習訓練中に自己の職業を見定め,安易な就職ではなく,その職に就く者は生涯の職とするからである。専門的職業訓練がドイツ社会では伝統的に重視される。ひるがえって,日本でも保育者の専門性が強調されるようになって久しい。しかし,その内実が伴うところまでは至っていないのが現状である。
「子ども・子育て支援新制度」の実施を前にして,日本と類似の課題の前に立つドイツがどういうストラテジーでもって,少子化と保育者不足を打開しようとするのか,私は長くドイツ幼児教育を学び保育者養成教育に携わる者として注目していきたいと思っている。この分野でも「ドイツ特有の道」の開拓を期待しつつ。
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