平成30年9月1日
健康な障がい者への健康づくり支援
長野県立大学教授 稲山 貴代この著者の書いた書籍
障がい者支援にかかわる研究を始めて10年が過ぎた。国立障害者リハビリテーションセンター(以下,国リハ)の管理栄養士から,「障がい者の栄養管理に関する目標や指針が必要だ」という訴えを聞かされたことがきっかけである。重度障がい者の症例報告や福祉に関する研究報告はあっても,在宅で生活している健康な障がい者の健康づくりに関する報告は極めて少ない。当の管理栄養士は,「国リハであれば,脊髄損傷者の肥満が一番の問題」という。まずは,国リハとの共同研究で実態把握から始めた。ところが結果は「肥満の人は多くはない」というもの。えっ? 現場では,個人の心情を揺さぶられるインパクトの強い事例に引きずられてしまうことが多いようだ。確かに,参照できる研究報告が必要だ。
そこで,国リハや(公財)全国脊髄損傷者連合会(以下,全脊連)の協力に加え,科学研究費補助金も得て(2011~2016年),慢性期の脊髄損傷者を対象に横断研究を積み重ねた。安静時代謝量の分布は少ないほうにシフトしておりエネルギー必要量の推定は少なめに見積もる必要がある,内臓脂肪面積で検討するとBMIやウエスト周囲径の基準は脊髄損傷者ではリスクの過小評価になる,QOLや食関連QOLが高く食物摂取状況や食行動も良好な者が多い,その食行動につながる準備・実現要因も良好である,脊髄損傷特有の食生活で“困っている”ことは想像していたより多くはない,など。これら研究成果は,稲山研HPで参照いただきたい(http://www.foodnutrition-tmu.jp/)。
健康な障がい者への栄養・食生活支援の “Plan" の際,次の3点に留意していただきたい。
① 個人と集団をきちんと区別する。個人の事例を集団の課題と見当違いをしない。
② どのレベルでの支援が必要なのかを整理し明確にする。必要なのは就業支援,生活支援,食生活支援か。課題は食物摂取状況か行動レベルかなど。枠組みによる整理は,目標設定と評価につながる。
③ 自立なのか自律なのか。何を,いつ,どこで,どれだけ,どのように食べたらよいかを自己決定できれば,その障がい者が栄養教育の学習者である。自律が困難であれば,周囲の環境要因に重点を置く。最初は障害特性に目が向きがちだが,ひとつの食卓を囲んで食事ができるのであれば,“考え方”はいわゆる健常者の場合と変わらない。
全脊連より2017年,『脊髄損傷患者のための社会参加ガイドブックTogether 11 食生活』を出した。ガイドブックは全国の会員・関連諸団体に送付され,全脊連HPからもダウンロードできる。実生活で活用できる情報として,当事者の方たちに研究成果を還元できたと,ひとまず安堵している。次の課題は,支援スタッフ・指導者やその教育者への情報発信である。3年前より,知的障害のある児童・生徒の健康づくりに関する研究もスタートさせた。2018年4月開学の公立大学法人長野県立大学からの情報発信にも期待していただきたい。
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第108号平成30年9月1日
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