建帛社だより「土筆」

令和元年9月1日

30周年を迎えた日本食生活学会

日本食生活学会会長 女子栄養大学名誉教授 青柳 康夫この著者の書いた書籍

 学会は,複雑多岐にわたる食生活の態様を整理し,学問として体系化することで,食生活学を構築する。また,それにより現実の食生活をより合理的なものに改善したいという考えから,平成2年3月10日に「食生活総合研究会」として発足しました。その後,平成6年5月28日には「日本食生活学会」に改組され現在に至っています。本学会はその目的達成のため,時宜に適した主題を掲げた年2回の大会と,その議論を深化させる研究集会を開催し,また季刊の『日本食生活学会誌』を発刊しています。これらにより,食品の生産から消費に至る食生活にとどまらず,その結果としての健康に対する影響,あるいは,その総体としての食文化など,食生活のあらゆる側面を分析し統合化する研究の促進ならびにその成果の発信に貢献してきました。

 て,本年は4月末をもって「平成」の御代が終結し,5月1日より新しい「令和」の時代が始まりました。バブルの崩壊から始まった平成時代はまた,東日本大震災等の地震や,毎年のように繰り返された豪雨などにより,多くの災害が引き起こされた時代でもありました。しかしながら,太平洋戦争の後より,当事者としての戦争のない平和な時代が続き,豊かな食糧に囲まれた希有に幸せな時代でもありました。

 近になり,中国や韓国などをはじめとする諸国の経済的な発展により,ある種,食糧資源の奪い合いのような状態が起きており,熱量ベースで40%にも満たない食料自給率である日本の食糧調達力への不安が語られはじめています。

 た,平成25年12月にユネスコ無形文化遺産に登録されるなど,世界中から「和食」への関心が高まってきています。それと裏腹に,和食材の人気が諸外国でも高まり,値段の高騰や品不足が指摘される事態になるなど,予測されなかったことが進行しつつあります。これらは食糧供給システムに大きな影響を与え,食生活にも種々の変化が惹起されています。

 学会は平成の御代とともに創立され,奇しくも30周年の年に平成の御代の終焉を迎えることになりました。平成時代の食生活を振り返り,新しい令和の時代へ向けた指針を示すことは本学会に課せられた使命と思われます。

 こで本学会の趣旨を広報するとともに,現代の食生活の多様なニーズに対応できる新たな日本食生活学会を構築する礎とするべく,「平成時代の食生活,その総括と新しい時代への提言」の主題で,創立30周年記念大会を本年11月30日~12月1日に大妻女子大学千代田キャンパスにて開催することとなりました。この記念大会の骨子は「平成における食生活スタイルの変容と新しい時代に向けた提言」と「平成における食糧供給システムの発展と今後の展開」と題する2つのシンポジウムに集約されます。会員諸氏のみならず,多くの方々の参加により,議論が深まることを希望します。

目 次

第110号令和元年9月1日

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