建帛社だより「土筆」

令和元年9月1日

「子どもの保健、子どもの健康 と安全」に求められていること

皇學館大学准教授 梶 美保この著者の書いた書籍

 育士養成課程は,1947年の児童福祉法制定に伴い保育制度が確立し,1948年「保母養成施設の設置及び運営に関する件」(厚生省児童局長通知第一〇五号)より教育課程が提示され,2018年4月に7回目の改定が行われた。

 後復興期には,当時の衛生状態や子どもの健康状態から保健科目の占める割合が多かった。1948八年,全21科目・1,350時間のうち「子どもの保健」の前身といえる科目の割合は17.8%(生理学及び保健衛生学 80時間,小児病学 40時間,看護学 40時間など)であった。

 952年には単位制となり,総単位数93のうち16.5%(生理学及び保健衛生学 4単位,看護学及び小児病学 4単位など)。2009年は総単位数68のうち7.4%(子どもの保健Ⅰ 講義4単位,子どもの保健Ⅱ 演習1単位),直近の2018年には4.4%(子どもの保健 講義2単位,子どもの健康と安全 演習1単位)となった。子どもの保健の割合は縮小してきている。

 回の改定で「子どもの保健Ⅰ」は,心理的な発達,精神保健の教授内容を心理学に移行し,講義四単位から2単位に縮小され「子どもの保健」となった。「子どもの保健Ⅱ」は,保育所における保健的観点に基づく環境整備,厚生労働省の各種ガイドライン等を踏まえた子どもの心身の健康・安全管理の実施体制等、実践的な力を習得する「子どもの健康と安全」(演習1単位のまま)となり,「保育の対象の理解に関する科目」から「保育の内容・方法に関する科目」に位置づけられた。

 のことから,①2015年4月より施行された「子ども・子育て支援新制度」に関連した保育の場の拡大,②より保健的な対応が必要な3歳未満児の割合の増加,③健康支援,事故・安全,感染症対策,ハザード対策等の保育の場におけるリスクマネジメントの重要性の増大を背景に,厚生労働省の保育の場における各種ガイドライン等を十分活用できる教授内容を求めているといえる。

 まり,従来の保健医療領域の「小児保健」ではなく「子どもの保健」に名称が変更され,教授内容も「保育の場における保健」と限定された2009年の改定の方向性が強化・明確化され,保育所保育指針「第三章 健康及び安全」の項目を保育士として実践していくための保健の基礎理論である「子どもの保健」と,「子どもの健康と安全」を目指したものとなった。保育の場と直結した学びが求められているのである。

 のために重要なのは「方向性の合ったテキスト」と「教授内容・方法の妥当性」ではないだろうか。本科目は従来,医師や看護職が担当する医療看護領域だったが,2009年の改定時に厚生労働省より教授内容として「保育所の子どもに保育職が実践するための保健」が提示され,小児保健の範囲は「保育の場における保健」に限定された。それに伴い担当は医師や看護職,保育士と多様化した。

 キストは,明示された教授内容に沿った目次立てにはなっているが,2009年改定時の主眼「保育の場」「保健的対応」「子ども集団全体の健康と安全」の視点で記述されているとは言い難い現状があった(筆者:日本乳幼児教育学会第26・27回大会報告)。現在各出版社は,新保育所保育指針に沿ったテキストの作成中であろう。保育保健の分野における実践力のある保育者養成のためのテキストを期待したい。

目 次

第110号令和元年9月1日

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