建帛社だより「土筆」

令和元年9月1日

小児科医として思う「子どもたち」

聖路加国際大学教授 聖路加国際病院小児科医長 草川 功この著者の書いた書籍

 本では出生数の右肩下がりが続き,町から子どもたちの姿が消えてしまった地域も増えている。しかし,どこで生まれたとしても,子どもが生まれ,育ち,大人になっていくことに変わりはない。

 こでは,小児科医として,子どもの出生と,亡くなる現状について述べる。

 「子どもは授かり物」という言葉を聞くことが少なくなった現在,子どもたちはどのように生まれてくるのだろうか?

 本の周産期事情としては,①少子化・核家族化・地域格差の拡大(都市部と地方),②結婚年齢の高齢化と低年齢化(二極化),③結婚年齢と第一子出産年齢との接近あるいは結婚と関係のない出産,④高齢化とともに不妊治療による出産の増加,⑤早産・低出生体重児・多胎の増加,⑥周産期医療の進歩(早産児、先天性疾患をもつ児の生存)があげられる。

 際には,多くの地域で出生数が減少しているが,若年出産が続く地域においては出生数が維持されている。そして,妊娠したから結婚,あるいは,シングルマザーの選択が増加しているように,子どもをもつことの多様性が進んでいる。第一子を出産した母親の年齢比率は,30年前に比べ20歳代は半減,30歳代は倍増,30歳以上は10倍近くに変化している。また,不妊治療が一般化し,体外受精による出生数は,2016年には全出生児の5%強の5万人を超えており,確実に増え続けている。この,高齢化や不妊治療の増加は,早産や低出生体重児の増加を導き,さらに周産期医療の進歩も後押しし,結果として,2,500g未満で生まれる低出生体重児が,全体の10%弱,在胎週数が37週未満の早産で生まれる児が,全体の6%程度となっている。古くは「致死的疾患」といわれていた難しい疾患も,医学の進歩により生命予後は劇的によくなった。一方,何らかの医療行為を継続的に必要とする「医療的ケア児」と呼ばれる子どもたちが増加している。

 のような出産の多様化により,子どもたちの家族内での位置づけは,授かった子ども中心というより,子どもはあくまでも後から加わった一員と変わってきている。こうして生まれてきた子どもたちは,予防接種に代表される予防医療の整備により,数多くの急性疾患から守られ,その死亡率はここ30年間で大きく変化している。

 990年には、0~4歳の子どもの死亡率は人口10万人あたり123人であったものが、2017年には50人まで減少。5~9歳も,18.5人から6.8人に減少している。死亡原因として,以前は不慮の事故が常に上位を占めていたが、予防によりその順位を下げ、先天性疾患や悪性新生物による死亡が上位となり、医学的には納得のいく結果となっている。一方,10~14歳,15~19歳の年齢層では,減少はしているものの,それぞれ,14.6人が8.1人,43.7人が19.7人と,5~9歳よりも多い状態で下げ止まっているが,死亡原因の上位が自殺であることは,大きな課題としてとらえなければならない。

 在の子どもたちが,どのように生まれ,どのような立場で生き,どのように亡くなっていくのか。その一面を知ることで,社会が子どもたちに何をすべきかを考える材料となれば幸いである。

目 次

第110号令和元年9月1日

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