まずは幼児を理解することからはじめよう。保育実践サイクルを活かした保育方法のテキスト。改定(訂)された指針,要領に対応した第2版。
内容紹介
まえがき
はじめに
保育実践の基盤は,保育者の幼児理解にあるといわれるように,保育者がその子をどう理解するのかによって,保育のありようは大きく異なります。たとえば,ダンゴ虫を探し回っているA 男の傍らに寄り添う保育者が,「彼はダンゴ虫の何に興味を示しているのか?」「なぜそれに興味を示すのか?」などを推理しながら,一緒にダンゴ虫を探しているとしましょう。この保育者のかかわりは,< A 男>理解に基づいた,彼の「今ここ」を援助する行為といえるでしょう。つまり保育者の幼児理解は,保育実践の出発点なのです。
本書は,将来保育者を目指す学生の方や,保育所・幼稚園に勤務する保育者の方を対象に,幼児理解にはじまる保育の援助と方法について提示するものです。従来,保育・幼児教育の方法に関する書籍の多くは,保育の形態や方法,行事,家庭・地域・小学校との連携などの解説に重点が置かれており,幼児理解に基づいた具体的な保育場面における保育者の援助の在り方については,必ずしも十分に扱われてこなかったように思います。
これに対して本書は,幼児理解を起点に,保育を計画(デザイン)し,実践し,省察することで,新たな幼児理解を再構成するという循環モデルを提示したところが特徴です(本書では,これを保育実践サイクルと名付けました)。本書は,次の3 部構成で展開されています。第1 部は,理論編(1 ~ 3 章)です。保育者の幼児理解と保育計画について解説します。第2 部は,実践編(4 ~ 11 章)です。8 つの具体的な保育場面について,保育実践サイクルに基づいて解説します。第3 部は,再び理論編(12 ~ 13 章)です。保育者の省察を促す方法としての記録とカンファレンスについて解説します。つまり本書は,保育の方法をBrush Up するための,「幼児理解→保育計画(デザイン)→保育実践→省察」の< 4 つの専門性>の循環モデルが提示されているのです。
さあ,みなさん,早速本書を紐解いてみてください。そして幼児理解を起点とし,新たな幼児理解を再構成する保育実践の意味を読み解いてみようではありませんか。
最後になりましたが,本書の作成にあたっては,編集協力者として,上田敏丈氏,岡田たつみ氏,奥山優佳氏,香曽我部琢氏,中田(後藤)範子氏(50 音順)にご尽力を頂きました。本書の企画策定から原稿校正に至るまで,ML を通して活発な討論を展開してきました。また,建帛社の黒田聖一氏には,今回このような貴重な機会を与えて頂くとともに,編集の過程では,ML を通して適切なご助言を頂きました。ここに心より感謝申し上げます。
2009 年12 月
小田 豊・中坪史典
第2 版にあたって
2017 年に「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」が改定(訂)されました。私達は,「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」に向けた保育をどのように行えばよいのでしょうか。達成すべき学習目標が明示化される小学校教育においては,授業を計画し(Plan),計画に沿って実践し(Do),計画通りに実践されたかを確認し(Check),改善することで(Action),児童の学習状況や到達度を評価し,授業方法の改善に努めます。PDCA と呼ばれるマネジメント・サイクルを通して教師は,自らの授業方法を吟味するのです。
他方,幼児教育では,計画から出発し,実践,確認,改善するよりも,むしろ保育者の幼児理解から出発することを重視します。保育者が幼児を理解し(Understand),そこから保育を計画・デザインし(Design),実践し(Do),省察することで(Reflection),幼児理解を再構成するのです。
本書では,PDCA とは異なるマネジメント・サイクルを「4 つの専門性」に基づいた「保育実践サイクル」(UDDR)として提案します。幼児のために,ともに歩む保育者について考える一助として本書をご活用いただけるとしたら,編者・著者として喜びに堪えません。
2019 年8 月
小田 豊・中坪史典
目 次
序章 はじめに 1
1.保育の方法を Brush Up する<4つの専門性(ちから)>
2.各章のダイジェスト
1章 幼児理解と保育者の援助
1.幼児理解とは
2.<その子>理解のプロセス
3.振り返ることにより新しくなる<その子>理解
2章 保育の計画(カリキュラム・デザイン)と環境構成
1.保育の計画を立てることの意味
2.保育の計画の特徴
3.保育の計画と環境構成
3章 幼児の遊びと発達
1.遊びの定義と分類
2.遊びと発達
3.子どもの発達に伴う遊びの展開
4章 登降園場面における保育者の援助と保護者対応
1.登降園場面における保育者の援助と保護者対応の基本的な考え方
2.幼児理解からはじまる「登降園場面」での事例
3.まとめ
5章 幼児の遊びの発展と保育者の援助
1.遊びの発展と保育者
2.幼児理解からはじまる「遊びの発展」
3.まとめ
6章 共同する経験と学び
1.保育における共同する経験と学び
2.省察に基づく共同する経験
7章 幼児同士のトラブルと保育者の援助
1.幼児のトラブルを読み解く保育者のまなざし
2.幼児同士のトラブルに対する保育者の援助
3.まとめ
8章 食育に関する活動と保育者の援助
1.食育の意義と現状
2.保育における食育
3.食育に関連した保育実践例
4.まとめ
9章 「障害児」への理解と援助の方法
1.「障害」についての基礎的理解
2.「障害児」の理解と援助の方法
3.事例にみる理解と援助の基本的な枠組み
4.事例を発展的にとらえるために
10章 連続性を踏まえた保育と保育者の援助
1.保育者に求められる「学びと生活の連続性」とは
2.「連続性」を踏まえた保育実践とは
3.まとめ
11章 家庭との連携と保育者の援助
1.家庭との連携とは
2.幼児理解からはじまる「家庭との連携」の実際
3.まとめ
12章 保育者の省察を促すための保育記録
1.保育における記録の意義
2.記録の様々な方法
3.記録の内容
4.記録を用いた評価・研修
5.まとめ
13章 保育者の省察とカンファレンス
1.「省察」と「カンファレンス」
2.個人の省察
3.共同の省察
終章 おわりに
1.「PDCAサイクル」V.S.「保育実践サイクル」
この本をみた方に
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