平成23年1月1日
宇宙日本食、はれてNASA標準メニューに
女子栄養大学教授 三浦 理代この著者の書いた書籍
昨年の日本の宇宙開発での快挙である,小惑星「イトカワ」から世界で初めて鉱物を持ち帰った人工衛星「はやぶさ」の成功は記憶に新しく,国民に希望と勇気を与えてくれました。
さて私は数年前から,宇宙航空研究開発機構(JAXA)より委嘱された社団法人日本食品科学工学会の仕事を受けて宇宙日本食の開発にかかわっております。宇宙ステーション(ISS)には最近では宇宙飛行士の野口聡一さんが5か月半滞在されたことは周知のとおりです。宇宙空間での最大の楽しみのひとつは食事だと聞いています。宇宙飛行士の食事はおいしくて健康を守るものでなければなりません。
2009年より,アメリカ航空宇宙局(NASA)の標準メニューに「日本食」が加えられました。日本人の食事は長寿を作る,健康的な食事であることが認められたのです。宇宙日本食搭載リスト19商品を用いてランチとディナーを提案し,日本人宇宙飛行士の栄養・食事管理をはかり,健康維持に資するレシピの開発を試みました。朝,昼,夕,軽食のそれぞれについて一食分のメニューの形式に整えました。19商品には,白飯・赤飯・おにぎり・トマトゼリー・ラーメン(しょうゆ・シーフードなど)・カレー(ビーフ・ポーク・チキン)・さばの味噌煮・サンマの蒲焼き・羊羹などがあります。
なかでもカレーは,日本人の国民食といわれるほどその味が好まれます。カレーの香りを嗅ぐだけで食欲が起こるほどです。宇宙飛行士にもカレーは人気があります。そこでランチのメニューにはカレーを提案しました。カレーにはさまざまな香辛料が使われています。香辛料には食欲増進作用や抗酸化作用があります。放射線暴露に対する防御作用も期待できます。
ある企業がクリスマス島でロケット開発実験にたずさわった際に,閉鎖空間に置かれた職員にカレーの嗜好検査を行った結果,中辛のマイルドな風味は閉鎖空間では物足りなく感じられることがわかりました。また,宇宙は無重力の影響により味覚,嗅覚が鈍くなります。したがってスパイスの辛さ,刺激を強めたものが好まれます。それらを考慮してウコンを多めに用いたカレーができあがりました。
すでに宇宙へ飛んだカレーは市販されており,私たちも地上で食べることができます。
ある日の宇宙でのランチは,ごはん・ビーフカレー・いわしのトマト煮・お吸い物・ペパーミントキャンディでした。
宇宙日本食だけでは栄養必要量を満たすことがむずかしい場合は,NASAの既存のメニューから一部を導入し,栄養バランスの検証を行います。放射線暴露に対する防御作用のための栄養素であるカロテン・ビタミンE・ビタミンC・葉酸などの栄養素が不足しているので,これらを強化・補足する必要もあります。宇宙飛行士に健康管理ができるうえにおいしい食事を提供することこそが私たちの仕事であると考えています。
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