建帛社だより「土筆」

平成23年1月1日

これからの保育士養成に求められるもの

目白大学教授 増田 まゆみこの著者の書いた書籍

 ,保育の在り方が大きく変わろうとしている。平成22年1月に「子ども・子育て新システム検討会議」が設置され,6月提出の基本制度案要綱で「すべての子どもへの良質な生育環境を保障し子どもを大切にする社会,出産・子育て・就労の希望が叶う社会,仕事と家庭の両立支援等」を目的とした。また,新システムとして「政府の推進体制・財源の一元化,社会全体による費用負担,基礎自治体の重視,幼稚園・保育所の一体化等」が示された。これほどの大変革を実現するには,子どもの最善の利益を第一義にした子どもの育ち,子育て支援の理念やその内容・方法について,根幹からの論議とともに,財源と質の高い人材の養成や確保等システムの構築が求められる。

 育ち・子育ての危機的状況に対して,子どもはさまざまな形でサインを出している。長年にわたって積み上げられたものの意味を問いつつ,国民の教育・福祉・経済など価値観の大転換をも含めた新たな社会構造を創造するために,保育者養成にかかわる者一人ひとりが当事者としての意識をもち,行動することの大切さを強く感じている。

 保一体化の動きにおいても,保育所の待機児解消という数の確保が優先され,効率性が重視されることから,その本質を見失ってはならない。大きなうねりの中で,先が見通せない不安感や,待遇の低さも含めて,厳しい保育環境は極限まできている。保育現場では,子どもや保護者への対応に困難性が増大し,子どもの健やかな育ちを願う日々の保育や子育て支援に懸命に取り組む保育者は疲れ果てている。また,教育の大切さが強調される中で,それでいいのかというような取り組みも見聞きされる。

 育の基盤そのものが揺れ動き,また新制度や保育の理念や内容等,その基本が検討中である時期だからこそ,保育を担う保育士養成の在り方を明確にする必要がある。

 て,保育所保育指針改定に伴って,平成22年3月に「保育士養成課程等の改正について(中間まとめ)」が厚生労働省の保育士養成課程等検討会より出され,23年度から新課程での養成が始まる。改正のポイントは,保育士養成が関連学問の単なる集合体ではなく,保育学の傘のなかで関連諸学問の位置づけをし直し,全体構成および教科目の設定,名称変更等をおこなったことである。配列順序もトップに「保育原理」を位置づけ,新設科目は「保育者論」「保育の心理学Ⅰ・Ⅱ」「保育課程論」「保育相談支援」,名称の変更は児童福祉を「児童家庭福祉」に,小児栄養を「子どもの食と栄養」にするなど8科目ある。また,実践力や応用力をもつ保育士を養成するため,実習や実習指導の充実を図った。

 期に改正が必要な保育士養成課程および保育士試験の改正を第一部に,制度改革等の動向を踏まえた保育の専門性の構築,保育士のキャリアアップ,また保育士養成における今後の検討課題を第二部として中間報告としたのは,今後の検討の必要性を強く認識しているからである。今回は,従来どおり二年間の保育士養成を基盤にした養成課程の提示だが,四年制の保育士養成施設も急増している今日,各施設の独自性あるカリキュラムとその実践が期待される。早急に,保育士資格とのその養成の在り方等について検討し,新たな制度の構築に繋げていくことが求められる。

目 次

第93号平成23年1月1日