建帛社だより「土筆」

平成23年1月1日

大学初年次の化学教育について

神戸女子大学教授 山本 勇この著者の書いた書籍

 学・生化学・食品微生物学を通して,管理栄養士養成課程の専門基礎教育を担っている者として初年次の化学教育について考えてみたい。ほかの科目にも通ずると思います。

 理栄養士の養成は高校の先生方に「理科系」と受け止められていないようですが,大学でも入試に必ずしも理科の科目を課しておらず,英語と国語が優秀であれば入学できるところが多い(化学ⅠとⅡを必須としている大学もあります)。しかし,栄養指導に携わる管理栄養士が栄養を語るとき,栄養素が体の中でどんな変化をして栄養の働きをするのか,食品にどんな化合物が含まれていて私たちの体にどのように作用するのか,などの理解に立っているなら説得力をもち,頼り甲斐のある栄養士と受け止められるはずです。したがって,管理栄養士養成課程の学生には何とかして「栄養とは何か」「健康とは何か」を化学の言葉で理解してもらわねばならない訳です。

 然科学に基礎を置く多くの大学では学生の自然科学や数学の知識の劣悪さに戸惑いと怒りを感じて毎年を送っていると言ってよい状況が続いています。幸いと言うべきか,平成24年度から高等学校の教育内容を見直して,これまでの4割増しとすることが示されました。しかし,それで大学教育につながる知識と考える力が十分に備わるとは言えず,まだまだ大学の初年次教育に工夫が求められることでしょう。

 の所属する管理栄養士養成課程では化学と生物の授業を習熟度別に行っていました。担当教員の退職に伴い解消していましたが,改めて来年度から再開し,私が担当することになりました。そこで,ほかの科目の担当教員が化学の教育に何を期待するかをあげていただき,それを学生が可能な限り身につけられるように教育方法を工夫しようと考えています。もちろん,教養としての化学にも親しんでもらうのですが。習熟度別ですから講義ノートはクラス毎に必要かと思うと少々気が重くなりますけれども。

 学の計算問題は大部分の学生が苦手としており,答だけに執着する傾向があります。なぜでしょうか。単位の適否を考え,計算の過程を説明しながら進める習慣がつけば,問題が解きやすいことに早く気付いてもらいたいです。

 を行うにも要領があり,そのための技もあります。私が用いている学び考える技法はキーワードで考えることです。まず,課題を探して決めます。次に,課題に関するキーワードを4つはあげます。キーワードについて参考書や辞典で調べます。そして,得られた内容を基にして課題の結論を引き出すのです。

 のようにキーワードをあげて調べ,考える習慣をつけることが最近の学生には有効ではないでしょうか。この過程は作文の技法の起承転結に相当し,レポートや論文の考察の進め方に通ずる方法です。化学の授業を可能な限り双方向で行う方法としても取り入れてみたいです。既に適用している方があればその長短を例示してくださると助かります。

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第93号平成23年1月1日