平成23年9月1日
管理栄養士国家試験と管理栄養士教育の未来
帝塚山大学准教授 野口 孝則この著者の書いた書籍
平成22年12月,8年ぶりに管理栄養士国家試験出題基準が改定された。平成14年8月以降の学術の進歩やこの間に改正・公表された法・制度などの変化に対応し,「管理栄養士としての第一歩を踏み出し,その職務を果たすのに必要な基本的知識及び技能について的確に評価する」という管理栄養士国家試験の原点に立った改定内容である。
多くの国民が食と健康に強い関心を寄せる現代社会において,管理栄養士が活躍すべき現場は,保健・医療・福祉・教育など多種多様に広がっている。だからこそ,将来,管理栄養士として進む現場がどの業種であっても対応できる基本的知識や能力を有していることを確認するために国家試験は存在する。
一方,国家試験はあくまでも管理栄養士としてのスタートラインにしかすぎない。したがって,今回の検討会報告書において何度も強調されている「あくまでも出題の基準であり,ガイドラインを教育の目標にした教育をするものではない」という言葉は,教育現場において大変重要である。
近年,国家試験受験対策こそが養成教育であるかのような錯覚に陥っている大学も多いようである。大学の生き残りのためには合格率こそがPRのポイントでもあるが,試験対策という詰め込み型教育では,養成校において本来学ぶべき幅広い知識や教養の範囲を狭めてしまう危険性がある。むしろ,国家試験出題基準には明記されていなくても,管理栄養士として将来の専門性を高めるための高度な教育・研究を学生の興味・関心に基づきながら行う必要がある。例えば,管理栄養士の現場での高度で柔軟な技術の教授であり,さらに,人間力や幅広い教養力に関しての教育の展開が必要であろう。
また,栄養管理の対象者は多様なライフステージに属しており,さらに対象者個々人に応じた栄養管理が実践されなければならない。対象者の希望は,生命維持,健康づくり,疾病予防・治療,QOL向上など多様であり,求められる最適な食や環境は時々刻々変化し続けている。つまり,その時々の栄養管理で終了するものではなく,最適な食を追い求め続ける管理栄養士は生涯を通じて常に向上し続けなければならない。
管理栄養士には,高度な専門知識と幅広い教養力に培われた人間教育が求められる。各養成校においては管理栄養士養成の実践教育法などを分野横断的に検討するとともに,卒後リカレント教育やキャリアアップ教育のための養成校の在り方の検討を行い,現役学生のみならず地域社会に存在する管理栄養士・栄養士の生涯教育にも取り組む必要がある。そのうえで,教育現場と職業現場の管理栄養士が連携・協働して優秀な次世代を育成し,四年ごとに改定される国家試験出題基準をより良いものにし続ける意識が大切である。
管理栄養士国家試験はたった一度の通過点にすぎない。養成校の教育能力とは,優れた教員と充実したカリキュラムを提供することであり,卒後5年・10年を経過した卒業生がどのような分野で活躍しているかが重要であろう。
未来のより良い管理栄養士をつくるのは,現役管理栄養士の役目である。
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