平成23年9月1日
小児のアレルギー疾患について―最近の動向
東京家政大学教授 岩田 力この著者の書いた書籍
どの保育現場でも遭遇する子どもの病気の一つにアレルギー疾患がある。食物アレルギー,アトピー性皮膚炎,気管支喘息,そして少し年長になるとアレルギー性鼻炎がある。それらのほとんどがいわゆるアトピー素因に根ざすため,それぞれ慢性疾患であるという理解が必要である。
これらの疾患について正確かつ新しい知識をもつことが子どもに接する職業の者には要求される。
本年(平成23年)3月,「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」が厚生労働省より発表された(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/hoiku.html)。これは先に公表された「保育所における感染症ガイドライン」に続くかたちで,「保育所における質の向上のためのアクションプログラム」の一環として作成された。すでに教育現場では学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)の利用が進もうとしているが,保育所では年齢の低い子どもたちの特性を踏まえて,食物アレルギーへの対処をより重要視したかたちで同様な生活管理指導表も作成された。
ガイドライン作成の基本的な考え方は,乳幼児のアレルギー疾患について保育現場への正確な知識の普及が必要であり,疾患そのものについても概説することが重要であるというものである。特別な配慮が必要である子どもが,十分な生活を送れるよう,生活管理指導表を仲立ち的な手がかりとして,主治医・保育者・施設長・嘱託医・看護師・栄養士等のスタッフと保護者が連携して子育てを行っていくために利用できるものとしてのガイドラインである。
食物アレルギーについて最近の成果は,厚生労働省研究班の着実な研究成果としての加工食品成分中の特定原材料表示制度(7品目の表示義務と18品目の表示を推奨されるもの)である。除去食療法が必要な者にとって,加工食品を用いる際に重要な情報が得られるようになった。一方,治療としての除去食をいつまで続けるべきか,一生食べられないのかという切実な疑問については,確実な回答あるいは一般化できる正答というものがないのが実情である。
しかし,この長年の難問に対しても食物抗原に対する免疫寛容誘導という試みが複数の施設で始まっている。食物は本来私たちの身体に対しては異物(自分自身ではない)であり,そこに免疫反応が生ずるが,本来は不利な反応を起こさない免疫寛容という現象が生ずる。ところが一部の個体では不利な反応であるアレルギーが生ずる。なぜ通常の免疫寛容が誘導されずにアレルギー反応となってしまうのか,この仕組みが解明されれば,それは食物アレルギーの治療に直結することになる。
乳児期に明らかな食物アレルギーであっても,幼児期にはその食物を食べられるようになるという症例経験と,非常に厳密な除去をしている群においてかえって除去の解除ができにくいのではないかという経験の積み重ねで,どの程度の量を食べると症状が出てくるのかということをみる誘発試験の重要性が広く認識されるとともに,古くから行われていた吸入抗原に対する減感作療法を応用するかたちで,食物抗原を用いた急速経口耐性誘導療法という新たな試みが行われるようになった。これは現在では研究的治療であり,食べさせることが症状の誘発になりしかも重篤な反応が生じる可能性を常にはらんでいることを十分に認識し,かついざというときの迅速な対処体制のある施設でのみ実施し得る治療法である。
限られた施設で行われているこの治療法の成果がまとまる数年後にはある程度,標準的な経口減感作療法が確立され,奏功機序も解明されていることを望む。
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