平成25年9月1日
医療界で求められる管理栄養士の役割
東京医療保健大学教授 下田 妙子この著者の書いた書籍
2000年の栄養士法改正で,栄養士・管理栄養士の対象が,「モノ(食品)」から「人」へと移行した。それに伴い,栄養学は動物の実験栄養学から人を対象とした人間栄養学へとシフトした。病院栄養士は,調理現場の裏方から患者や他の医療職がいる表舞台に出るようになり,チーム医療の一員として活躍するようになった。「栄養の指導」が専門の医療職としての管理栄養士は,医療界でどのような役割を求められているのだろうか?
日本では,医師はメディカルスタッフであり,他の専門職は「パラメディカル」と呼ばれていたが,卑下した呼び名であることから,協働して働く医療職ということで「コ・メディカル」が用いられるようになった。しかし,この「コ・メディカル」という言葉は和製英語で正式名称ではないばかりか,①職種の範囲が不明確,②「喜劇 comedy」の形容詞「comedical」と誤解する可能性がある,③上下関係を暗示する,などの問題点があると指摘され,日本癌治療学会では,学会発表や出版物では「コ・メディカル」の使用を原則として自粛することを決定した(理事長名,2012年)。その結果,日本癌治療学会のホームページでは,「医師・歯科医師他」と,他の医療職の総称として「メディカルスタッフ」で区分している。
よって,管理栄養士もこのメディカルスタッフの一員である。となると,医療の分野で働く管理栄養士は医療職としてのコンピテンシーとそれを実践する実践能力およびコミュニケーション能力によりcapability(自分でできる能力)を高める必要がある。それは,日々の仕事の中で自分自身の問題点に気づき,改善していく能力を身につけることであり,「人の振り見てわが振り直せ」「他山の石」とするような能力が必要である。それを可能にするのがコミュニケーション能力である。コミュニケーションを通して,患者や他の専門職を理解し,栄養の専門家として何が求められているかを知り,自分自身をつくり変えていく能力を身につけることが重要である。
先日,順天堂大学の樋野興夫教授の「がん哲学外来」の講演を聞く機会を得た。がん哲学外来の目的は治療ではなく対話である。対話を通して「生きることの根源的な意味を考えようとする患者とがんの発生と成長に哲学的な意味を見出そうとする人との対話の場である」(NPO法人「がん哲学外来」設立趣意書)。そして,メディカル・カフェ(がん患者や家族の安心につながる対話の場)のスタッフ要件として,①品性,②使命感,③犠牲を払う(自ら犠牲となっても心は豊かに)の三か条が掲げられている。
クライアントに向き合う管理栄養士も「暇げな風貌」でじっくり耳を傾け,品位を保ちながら,クライアントが望むゴールに到達できるよう後押しするサポーターとして「栄養相談室」から「生活習慣病哲学相談室」へと看板を替え,対話の場を提供したいものである。
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