平成25年9月1日
ノイローゼ的不安(神経症)に直面している学生への理解
岡山学院大学非常勤教授 赤木 正典この著者の書いた書籍
アメリカの精神科医サリヴァンは,児童の13歳~17・8歳頃の青年前期に果たすべき対人関係的課題は,同性同年輩者との一対一の親友関係をつくることであると言っている。特に中学時代の友人を「チャム」と呼び,「チャム」の存在の有無がその後の彼らの精神生活にとって大変重要な意味をもつと言う。
この青年前期の友人との関係は,お互いの立場と連帯を理解し合う存在として想像以上に親密になり,親より友人関係が何よりも優先される。今まで友人のできなかった児童に,この時期に初めて友人ができると,喜びは大きく,未熟な考え,乏しい経験の中で互いに行動する。この年齢の児童が,もしも母親から親友を否定されたならば,自分を否定・非難される以上に憤慨する。外観だけで,安易に「不良」とか「頼りない人」のレッテルを貼ることなく,彼らが大事にしている児童の世界と自立への過程を認めたい。
大学生活において,気になる学生が幾人かいる。それは,一般的にノイローゼといわれる神経症(不安神経症,対人恐怖症,その他)の症状のある学生である。
私がかかわった事例をあげる。一対一の親密な親友関係の課題達成に失敗し,不安神経症からパニック症候群になっている男子学生であった。私の授業に40分遅れて入ってきたため「駄目ですよ,出席にならないよ」と言うと,彼はすぐ退席した。授業後自室に帰ってみるとドアのガラスが割られていた。散乱したガラスを掃除しているところへ彼がやって来て,謝り,自分が掃除すると言う。
「遅刻を先生に注意され,カッとなり,冷静さを失ってしまった。自分はパニック症候群で精神科病院へ月1・2回通院している」という彼とのかかわりは,このときから始まった。
彼は,高校時代に唯一の友だちがいたが,自分のことを他言されて友だち不信に陥った。大学二回生だが,全く友だちはなく,内気で孤立して自分に自信がもてない。些細なことが気になり不安がつきまとう。一方,完全主義的なところがあり,高校時代は好きな教科は徹夜をしてまで頑張っていたが,今は精神的に不安定なためにその気力はない。時々欠席するし,学習に集中できないため,卒業単位や将来の就職が心配で仕方がない。
このように神経症の学生と接してみると,大多数の者が対人関係の不調に起因している。この期に及んで,彼らが急激な変化を遂げ,対人的恐怖やパニック症候群の苦悩から解放されたとしても,彼らがもつ内向性,羞恥性から解放されることは難しいであろう。
昨今の大学,職場環境,社会環境は社交性,外向性,行動力に人間的魅力を置きすぎているのではないか。とはいえ,教育界でもここ10年くらいの間に,軽度発達障害の理解も再分化され,アスペルガー症候群の特出した才能が,あまりコミュニケーションを必要としないポストで認められている例もある。神経症の場合でも彼らと日常的に接する教師や治療者が,神経症的不安に直面している学生に対して,寄り添い共感して「心の内なる問題として,彼らの病への肯定的姿勢」をもたなければ,彼らの治療は難しい。
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