建帛社だより「土筆」

平成26年1月1日

解明が進む亜鉛の生理機能と健康

東北大学教授 駒井 三千夫この著者の書いた書籍

 近の研究の進展により亜鉛は,多くの酵素の活性中心として必須であるほかに,遺伝子の増幅にも直接的な関与をしており,さらには免疫機能や解毒機能をも有する微量元素であることが明らかにされてきた。外見は鉛に似ているが,鉛に比べれば著しく毒性が低く,多くの生理調節機能を有する元素であることがわかってきた。このため,毒性のある重金属をイメージさせる「亜鉛」よりは,中国語で使われている「鋅」(zinc)のほうが適切な漢字のようにさえ思える。

 なわち亜鉛は,味覚機能の維持などのほかに,身体の生理機能の維持に必須なはたらきを行っていることが,分子レベルで明らかにされつつある。例えば,亜鉛欠乏性腸性肢端皮膚炎が,小腸粘膜の亜鉛トランスポーター(ZIP4)の異常による吸収不良によることがわかったのが2002年である。この十年間,亜鉛研究に関する解明が主に亜鉛トランスポーター研究の進展によって広範囲に進んでいる。これからは,不定愁訴を含めた色々な臨床領域の未解明な疾病との関係も含めて解析されることが期待されている。

 般に栄養素の製剤は臨床家に軽視されがちだが,筆者は高齢者向けの安全な治療剤として見直されなければならないと考える。特筆すべき亜鉛のほかの機能は,含有酵母の放射性物質の除去能や,有害重金属の解毒機能であり,後者はすでに治療にも使われている。

 の亜鉛の機能性の評価は,行政の動きにも表れている。2004年4月から「栄養機能食品」成分に亜鉛・マグネシウム・銅の3成分が追加され,合計17成分(ビタミン類とミネラル類)となった。また2008年10月,文部科学省は「学校給食における食事内容について」として,各附属学校を置く国立大学長・知事・教育長宛に,亜鉛は「日本人の食事摂取基準」の推奨量(一日)の33%摂取が望ましいとして,6歳から14歳までの児童・生徒に適用するよう通達を出した。

 年,亜鉛の必要量に対する一日摂取量は不足しており,それが種々の生活習慣病や老化に関係していることが明らかにされつつある。欧米では,人口の約30%が亜鉛欠乏状態にあると報告された。日本では最近まではっきりした報告はなかったが,2003~2005年,倉澤隆平医師(長野県みまき温泉診療所)らが中心となり血中亜鉛の過不足の調査が行われ,日本人の約30%が欠乏していると推定され,亜鉛不足気味の人の多いことが広く認知されるようになった(NAGANO Study, 2005)。倉澤らは,亜鉛治療が味覚摂食障害の治療に効果があることは言うまでもなく,褥瘡の治療等にも効果があるという実績をあげた。また三年前に発足した「近畿亜鉛栄養治療研究会」が亜鉛治療をリードしている。

 うした中,上記臨床家や第一線の亜鉛トランスポーター研究者などでまとめられた『亜鉛の機能と健康』の出版はタイムリーであり,今後の生活習慣病の軽減とスマートエイジングに役立てられるものと期待している。世界に向けて発信したい本の一冊である。

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第99号平成26年1月1日

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