平成26年1月1日
言語聴覚士の卒前・卒後教育の現状と期待
一般社団法人日本言語聴覚士協会会長 国際医療福祉大学教授 深浦 順一この著者の書いた書籍
言語聴覚士は,1997年に「言語聴覚士法」が成立して初めて国家資格となった比較的新しい医療福祉の専門職です。現在,国家試験合格者の総数は約22,000人で,全国に71の養成校があり,毎年1,700人前後が卒業しています。
言語聴覚士の対象障害は,①聴覚障害,②言語発達障害,③失語・高次脳機能障害(認知症を含む),④発声・発語障害(構音障害,音声障害,吃音),⑤摂食・嚥下障害です。これらの障害のある方に適切な言語聴覚療法を提供するために,卒前教育では,医学系(基礎医学,臨床医学),心理学系,言語学系,音響学系の基礎科目と言語聴覚障害学系の専門科目を履修します。専門科目は前述の五つの対象障害領域に関するものです。これらの科目は「言語聴覚士学校養成所指定規則」で細かく定められています。分野が非常に幅広く,学生が四年間で修得するのは大変です。
また,言語聴覚士の卒前教育の重要な構成要素として臨床実習があります。480時間以上にわたって,病院と診療所を中心に実際の臨床の場面で,五年以上の臨床経験がある言語聴覚士の指導のもとに実施されます。指導者の監督のもとで患者・障害のある方に協力いただき,実際の臨床に即して検査・訓練を行います。しかし,実習時間数や実習指導法,臨床指導者の教育力など様々な問題が提起されています。
これら卒前教育の問題解決には,モデル・コア・カリキュラムの作成,指定規則の検討が必要です。日本言語聴覚士協会では,モデル・コア・カリキュラムの検討を行っており,ここ1~2年でその成果が出る予定です。指定規則は施行から15年が経過しています。医療ならびに言語聴覚療法の進歩はめざましく,新しい領域も増えていることなどから,この指定規則の再検討が必要な時期に来ているのかもしれません。
医療・福祉の専門職は養成教育で完結するのではなく,自己研鑽のため生涯にわたって学習し続けることが求められます。協会も生涯学習システムを構築し,都道府県士会と協力して基礎プログラムと専門プログラムの充実に努めています。また,認定言語聴覚士制度を創設し,言語聴覚士の専門性を高めるための努力をしています。認定言語聴覚士は,五年以上の臨床経験をもち,基礎プログラムを終了し,かつ専門プログラムの1クール(おおよそ5年以内に履修可能)を終了した者に6日間の講習会を提供し,試験に合格した者を認定しています。摂食・嚥下障害領域,失語・高次脳機能障害領域,言語発達障害領域をすでに開講し,聴覚障害領域,発声・発語障害領域を近々開講する予定です。
言語聴覚士の卒前・卒後教育は課題が多い反面,大学院へ進学してより高い水準をめざそうとする若い言語聴覚士も増えています。これらの方たちが今後の言語聴覚療法の発展に大きな貢献をしてくれるものと期待しています。
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