建帛社だより「土筆」

平成26年1月1日

医療保育と医療保育専門士

東京家政大学准教授 鈴木 裕子この著者の書いた書籍

 療保育は主に病院(病棟・外来),病児・病後児保育室,医療を必要とする子どもが入所している障害児施設や乳児院を活動の場とする保育である。医療機関で活動する保育士と看護職,医療職,そして関連領域の教育職等で組織されている日本医療保育学会では,医療保育を「医療を必要とする子どもとその家族を対象として,子どもを医療の主体としてとらえ,専門的な保育支援を通じて,本人と家族のQOLの向上を目指すことを目的とする」と規定している。

 院への入院や施設への入所は,子どもとその家族にとってそれまでの生活とは異なり,医療と密接にかかわる生活を余儀なくされる事態といえる。この事態によって引き起こされる子どもと家族の困難は少なくない。医療保育にはその困難を軽減すると共に,病状をはじめ個別性が高い子どもとその家族に対して,心理的・情緒的に寄り添いながら,医療生活の受容と,医療生活の充実に向けた保育支援が求められる。医療の場における生活は,物理的・心理的,または時間・空間の制限を余儀なくされるが,その環境の中でも生活の豊かさと,子どもと家族が安心でき,満足できる医療生活に向けた保育支援が求められる。

 どもの心理的支援と生活におけるケアワーク,そして子どもの発達ニーズをとらえた支援等について,個別支援を基本とする保育計画に基づく支援と,医療生活を共にする仲間との集団遊びの充実や,単調になりがちな医療生活に楽しさや期待が持てる行事等の計画・実施により医療生活が豊かになることを目指している。

 た,保育士の専門性である家族に対する支援は,家族の悩みや不安の傾聴と保育ソーシャルワークを中心としている。医療体験が子どもや家族にとって負の体験にとどまらない支援を通し,医療を要する子どもと家族のQOLの向上を図ることが期待される。

 本医療保育学会では,医療機関に勤務する保育士を対象として,学会認定の「医療保育専門士」の資格取得に向けた研修を行っている。医療保育を担う保育士(医療保育専門士)は医療チームの一員として,他職種との協働の中で,それぞれの専門性を尊重した活動を行い,子どもと家族のQOLの向上を目指して活動している。

 療保育専門士は,医療の必要性の理解と倫理面への配慮を行い,不安やストレスを抱えがちな子どもと家族に対して,それらを軽減するかかわりと共に,専門性に基づく保育支援を中心的な役割とする。ただし現状では,医療機関の保育士の勤務には制度的な壁もあり導入が困難であるが,医療機関ではあっても,そこには保育を必要とする子どもがおり,保育の困難さを抱える保護者への支援の必要性は高い。医療保育を専門領域とする「医療保育専門士」導入に関して一層の理解を求めていく必要があると思われる。

目 次

第99号平成26年1月1日

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