平成26年1月1日
ミクロネシア連邦ポンペイ島住民に触れ考えたこと
畿央大学准教授 堀内 美由紀この著者の書いた書籍
ミクロネシア(以下ミ国)は,赤道の北側に沿って点在する607の島と珊瑚礁からなる総面積わずか700㎢の島嶼国である。ポンペイ,ヤップ,チューク,コスラエという4つの州で構成される。2011年の国民一人当たりGNIは2,900ドル,経済成長率1.4%,物価上昇率5.5%である(世界銀行報告)。生活習慣病は,日本政府のミ国に対する援助方針に,肥満や糖尿病などの対策が同国の社会・経済発展には不可欠であると述べられるほど深刻である。私は住民の生活習慣病に対する予防行動を調査するため主島ポンペイ島に5か月間滞在した。
調査に応じてくれた住民の平均年齢は男性が51.65歳,女性が47.48歳。BMIの平均は男性28.4,女性31.2,体脂肪率の平均は男性25.3%,女性は42.5%であった。健康と教育には大きなかかわりがあると言われるが,今回の調査では,教育歴の違いによる運動習慣や身体機能について有意差は認めなかった。ポンペイの小学校には体育の“授業”はない。体育の“時間”は「さあ,外で走っておいで」と生徒を校庭へ送り出すのみである。給食もない。つまり,学童期に食や運動の“習慣”を評価される機会がない。前述のとおり国民一人当たり30万円弱の年収で生活しているが,84%が現在の生活に「満足」と回答した。この背景には豊富な食料がある。島の周囲は豊かな漁場,雨に恵まれ島内の木々は常に緑,パンの実,ココナッツ,バナナ,と手を伸ばせば食べ物に手が届く。柱とトタンの屋根のみの住居で生活する人々の中にも「肥満」域に入る人が多く認められる。多くの貧困国とは違い,体型から経済状態を推測できない。
自分の体重を知らないという日本人は稀だろう。ミ国では三分の一ほどは想像すらできないという様子である。この状況で「減量」の話は困難である。例えば,身長150㎝,体重100㎏超の女性が体重計に乗って,「マーウ(いい)?」と訊く。筋肉モリモリの体型ではない。私たちの感覚からすれば,ナンセンスな質問である。しかし国際保健医療活動の基本は「否定しない」ことだと私は考える。体重500gの増減に一喜一憂する私たちの生活がスタンダードではない。頭を切り替えなければならない。
私たちは,先方の国にとっては外国人であり,どうすれば自分の持つ専門知識が現地で有効活用できるか謙虚に考える必要がある。重要なのは,現地の人々が自らの意見を述べ,当事者同士で意見を交わして,解決策を導き出せるアプローチを工夫することである。
学生時代,「命の重さは平等か?一日一ドルで生活している家庭で未熟児が生まれたら助けるべきか?」と問われ,「そんなの当たり前でしょ」と鼻の穴を膨らませた。それから随分時間が経ち,講師の言わんとしたことが今は理解できるようになったが,それでも私は「助けるべき」と考える。必ず解決策はあるはず。地域の人々のいのちの営み,つまり生活に寄り添うことを諦めない,そうした姿勢が住民の生活習慣病対策支援には大切と考えた。
世界人口は71億を超え,その八割は途上国に住む。日本は途上国から食料を含む多くの資源を輸入している。他国の人々が元気に働けなければ,私たちの健康生活も成り立たない。保健医療協力活動は慈善事業などではない。日本人の健康を守るためにも,重要な事業なのである。
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