平成27年1月1日
少子高齢社会での大学教育の新たな展開
東京家政大学教授、前学長 木元 幸一この著者の書いた書籍
昨年のノーベル平和賞には,日本の憲法第九条が候補として浮上し,一瞬色めき立ったところもあったようだが,最終的にマララ・ユスフザイさんが史上最年少で受賞した。タリバンに襲撃され銃で撃たれながらも,女性が教育を受ける権利を主張し続けている勇気ある17歳の女性の受賞は,教育に携わるものの一人として,心より喜び,敬意を表する次第である。
1872(明治5)年の日本の学制発布は実に格調高く「華士族農工商,必ず邑に不学の戸なく家に不学の人なからしめん事を期す。幼童の子弟は男女の別無く小学に従事せしめざるものは其の父兄の落ち度たるべき事」という教育に対する素晴らしい精神がうたわれている。以来,140年,憲法第九条のノーベル平和賞は及ばずとも,物理学賞は三人の日本人が受賞し,日本の教育研究水準はそれなりの成果を示している。
最近は,大学の教育責任を重視する傾向が続いている。大学への進学率は,ちょうど日本の高度成長が始まった頃の高等学校への進学率と同じ55%を超えようとしている。経済界の要望もあり,大学には研究者を育てるだけでなく,日本の経済力・労働力を確保できる人材育成を要求されている。ただし従来と違うのは,急速な少子高齢化の進行である。
このまま人口減少が続くと社会保障関係支出が家庭の所得の半分を占めてしまうといわれている。今や多くがアメリカンスタンダードの日本であるが,社会保障関係支出の割合は,OECD中アメリカよりすでに多く,ヨーロッパの国々よりも少ないという位置におり,アメリカよりもヨーロッパに日本の将来のモデルがある。
政府の諮問委員会は,少子高齢化への対策は2020年代初めまでが勝負と位置づけており,具体的には女性が安心して出産や子育てと仕事を両立できるようにすることである。出産や子育てへの給付金を増額することや職場へのスムーズな復帰を可能にすることなどが解決策とみられている。男性も含む長時間労働の見直しや年齢・性別にかかわらず意欲のある人は70歳程度までは働くことができる社会を提言している。
65歳以上の人が人口に占める割合は日本がすでに最も多く,直ちに本格的に対策に取り組まねばならいほど差し迫った状況にある。労働力を確保するための社会システムが完備されなくてはならないという新しい挑戦は,子育て・教育,食・健康,看護,福祉そして地域(地方)などの面から実学教育を担ってきた多くの女子大学が積極的に関与すべきものである。
我が東京家政大学においても,これまで培ってきた専門領域とその人材育成の実績を基に,多様性を考慮した社会制度や医療制度を整備する時代にあって,女子大学の内向きイメージから社会化・仕事化という外向き活動への展開を進めている。このような新たなパラダイムの転換は,20世紀の教訓を得て21世紀の新しい日本社会の建設に貢献するはずで,経済面だけで将来が語られるのではなく人々の全体の幸福な一生(それこそ今盛んなキャリア支援教育の到達点)のために広く役立てねばならない。
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