平成27年1月1日
新たな災害時の食の備え
新潟大学准教授 藤村 忍この著者の書いた書籍
2004年10月,最大震度7を記録した中越地震が発生し,最大103,000人が避難生活を強いられた。この災害で亡くなられた方は68名を数え,そのうち52名は災害発生以後の災害関連死であった。エコノミークラス症候群が取り上げられ,また歯科系から誤嚥性肺炎による健康被害が多数報告された。
新潟県は,穀倉地帯であるとともに,1,000社以上の食品関連企業が立地する食品加工地域である。多くの食品関係者(製造,研究開発,行政等)がこの地震を被災した結果,食への違和感などの意見が出され,農・工・医・歯・教育学系の食品研究者が集う組織をもつ新潟大学では災害時の食の研究を開始した。
当初,非常食で解決済みとする意見は根強かったが,災害時の食の専門家は甲南女子大学の奥田和子名誉教授などごく少数であり,ネットワークづくりや情報集約,課題整理からのスタートであった。従来,食糧支援をいただいた被災地から食の問題提起がなされることは稀なことも判明した。
行政等の防災分野での食は,経費や長期保存への意識が高く,食べることへの関心は低いものであった。非常食は長期保存性と備蓄性(コンパクトさ)が求められたが,例えば乾パンは優れているものの,多くの水を摂取しなければ,飲み込みにくい。また乳幼児向けの食品やアレルギー対応食品は備蓄されていないなど,課題が浮き彫りとなった。
一方,被災地では,年齢や生理状態に応じた食べやすさ,栄養価,美味しさ,アレルギー対策等の多様かつ個別の課題が求められていた。そこで食の見方を変えるべく,新たに「災害食」を提唱させていただいた。
そして多くの皆様のご協力を得て,2014年8月に『災害時における食とその備蓄』を建帛社から出版させていただいた。本学4冊目の災害食書籍である。建帛社からは他に『災害時の栄養・食糧問題』(日本栄養・食糧学会監修)が出版され活用されている。
しかし災害時の食対策は未だ発展途上にある。東日本大震災では最大47万人の被災者が生じ,一部で災害食は用いられたが不十分であった。首都直下地震や南海トラフ地震では100万人を超える被災者が想定されており,食対策が急務である。
そこで2013年9月1日に日本災害食学会を設立し(会長:新潟大学門脇基二副学長,顧問:奥田和子氏),全国の研究者,管理栄養士,食品企業,医療,防災,行政関係者等が議論する場を設けることができた。2013年8月には内閣府より「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」,2014年2月に農林水産省より「緊急時に備えた家庭用食料品備蓄ガイド」が出され,これらの動きと密接に連携し,食の備えの意識を広く根付かせることにより今後の災害時の食に関する健康二次被害を軽減すべく活動を続けている。
近年は多様な非常食,災害食が開発されており,ぜひご賞味され,食の備えを進めていただきたいと思う。
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