平成27年9月1日
食品因子による生活習慣病予防効果
神戸大学大学院教授 芦田 均この著者の書いた書籍
食品の機能性に関しては,生活習慣病などの疾病予防・改善の観点からの研究が多くなされてきた。しかし,その多くが抽出物や,それを含む組成物による機能性検証レベルでの研究であり,化合物レベルでの詳細な作用機構解明はまだ十分ではない。今年(2015年)4月1日から,特定保健用食品に次ぐ,新たな機能性表示制度が始まったが,この制度では,関与成分とその作用機構を明確にすること,さらに安全性を担保することが強く求められている。このような状況の下,非栄養素,すなわち食品因子に特化して,化合物レベルでの栄養機能制御を介した生活習慣病予防効果の作用機構に関する最新の話題を紹介する。
オリゴ糖(少糖類)や多糖類は,食品の一次機能をつかさどる炭水化物であるが,三次機能の発現にもかかわることが明らかにされてきている。例えば,オリゴ糖がプレバイオティクス作用を示すことはよく知られている。最近,新たなオリゴ糖の機能として,フラボノイドの吸収促進・機能増強作用が見い出された。また,ジャガイモなどのデンプンが消化されて生じたレジスタントスターチが,大腸での腸内発酵を促すことで短鎖脂肪酸を産生し,大腸機能改善にかかわることが明らかとなった。
食品の二次機能である嗜好特性に寄与する呈色,呈味,香気成分には,三次機能である生体調節機能を示すものがある。例えば温州ミカンなどに含まれるβ-クリプトキサンチンや褐藻類に含まれるフコキサンチンは,それぞれ脂肪細胞の肥大化の抑制,エネルギー代謝の活性化などにより抗肥満・抗糖尿病作用を示す。柑橘類の苦味成分であるノミリンは,抗肥満・高血糖改善作用をもたらす。ガーリック由来のスルフィドは,調理などの物理的損傷により内在性酵素が働くことで香気や香味を生じるが,このような二次機能に加えて抗血栓作用や抗がん作用を示す。
ポリフェノールに関しては,標的分子を明確にし栄養機能制御作用を介した生活習慣病予防の作用機構を解明する研究が進んでいる。先駆けは,茶カテキンであるEGCGが67-kDaラミニンレセプターを介して多様な機能を発現することが明らかとなったことである。最近の研究では,ブドウ種子のレスベラトロール,ウコンのクルクミン,カカオや黒大豆などに含まれるプロシアニジンなどが,先に述べたノミリンと同様に,インクレチンホルモンを介して,膵臓からのインスリン分泌を促すことで高血糖改善作用をもたらすことが示されている。
最近注目されている筋萎縮の抑制作用は選択性が低く,レスベラトロールやケルセチンなど多様なポリフェノールが有効性を示す。また,イソフラボンであるダイゼインの代謝産物エクオールは骨代謝を調節するが,最近の研究では脂質代謝や糖代謝に対しても有効性を示すことが明らかとなった。
ポリフェノールの生体利用率は一般的に低く,吸収された一部の化合物も多くは抱合体として存在し,アグリコンとしての存在量は微量である。したがって,消化管からの吸収にかかわるトランスポーターの研究や代謝変換に関する研究,さらには,機能性発現にかかわる活性本体の探求がその機能性を理解するうえで必要である。
食品因子の生活習慣病予防に関する最新の知見の集積として『食品因子による栄養機能制御』が建帛社より刊行された。食品因子の作用を多面的に理解するうえで一助となると信じている。是非一度手にとってもらいたい。
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