平成27年9月1日
家庭科教育で育む問題解決リテラシー
大阪教育大学教授 鈴木 真由子この著者の書いた書籍
21世紀に求められる人材には,現代社会における諸問題,例えばグローバル化や高度情報化,少子高齢化,環境問題(有限性のある資源)等への対応力,問題解決リテラシーが不可欠です。それに伴って,これまでは,「何を知っているか(知識・情報の獲得)」に重きが置かれていた学力観が,「何ができるか(知識・情報の活用)」,さらには「どのようにするか(協働性・態度)」へと転換されました。
そうした中でOECDは,①実社会への応用,②実践的な体験活動,③学習者相互の意見交換,④探究活動等の教授法に注目するようになりました。国際的な学力観の変化とともに「座学による詰め込み型を脱却して,いかにアクティブ・ラーニング(課題の発見と解決に向けた学習者の能動的・協働的学習)を導入するか」が教育現場における喫緊の課題となっています。
翻って,家庭科教育においては「学習した内容を実生活・実社会で応用的に使う実践力の育成」を目指し,「体験・実験・実習等,“身体”や“五感”を通して学ぶ」場面を取り入れ,「公平・公正な関係の下で相互に自由な発言を可能にする」環境をつくり,「学習者の主体的な探究活動」を進めてきました。言うまでもなく,これらはOECDが注目している教授法そのものであり,アクティブ・ラーニングにほかなりません。
家庭科の魅力は,現実社会で起こっている問題を素早く直接的に取り上げられることです。さらに言えば,それらを児童・生徒の具体的な生活場面に引きつけて題材化できることにあります。そこから出発する,あるいはそこへ帰着させることで,他人事ではない自分事として問題をとらえ,解決に向けて考え,アクションを起こす。その結果やプロセスを振り返ることで新たな問題状況に気づく……。家庭科教育では,このような自分と他者(人・物・事)との関係を踏まえた現実的な学習によって,問題解決のためのリテラシーを身につけていくのです。
家庭科教育における問題解決型の学習は,児童・生徒の思い込みや既成概念を揺さぶり,壊して,問い直す活動から始まるといっても過言ではありません。ある高校の先生は,問題解決型の学習について「自分の問題に対して葛藤しながら解決しようとする力を身につけてほしい」「正解がない問題に対して多様な解決方法があることを知ってほしい」と語ってくれました。また,小学校の先生からは「問題に気づくための仕掛けには,探究したり試したりする時間が必要」であり,「探究する・思考することで“学ぶ楽しさ”を知った子どものエネルギーは無限」とうかがいました。
このように,問題解決的な学習は,家庭科を学ぶ児童・生徒はもちろんのこと,実践する教師にとっても魅力的な要素に満ちています。そうした学習にじっくり取り組める時間と空間をいかに確保するかが問題解決リテラシーの習得に不可欠であり「解決すべき大きな問題」と言えそうです。
目 次
第102号平成27年9月1日
発行一覧
- 第119号令和6年1月1日
- 第118号令和5年9月1日
- 第117号令和5年1月1日
- 第116号令和4年9月1日
- 第115号令和4年1月1日
- 第114号令和3年9月1日
- 第113号令和3年1月1日
- 第112号令和2年9月1日
さらに過去の号を見る
- 第111号令和2年1月1日
- 第110号令和元年9月1日
- 第109号平成31年1月1日
- 第108号平成30年9月1日
- 第107号平成30年1月1日
- 第106号平成29年9月1日
- 第105号平成29年1月1日
- 第104号平成28年9月1日
- 第103号平成28年1月1日
- 第102号平成27年9月1日
- 第101号平成27年1月1日
- 第100号平成26年9月1日
- 第99号平成26年1月1日
- 第98号平成25年9月1日
- 第97号平成25年1月1日
- 第96号平成24年9月1日
- 第95号平成24年1月1日
- 第94号平成23年9月1日
- 第93号平成23年1月1日
- 第92号平成22年9月1日
- 第91号平成22年1月1日
- 第91号平成21年9月1日
- 第90号平成21年1月1日
- 第89号平成20年9月1日
- 第88号平成20年1月1日