建帛社だより「土筆」

平成27年9月1日

虚弱「フレイル」予防としての食べる力の維持

和洋女子大学教授  柳沢 幸江この著者の書いた書籍

 均寿命がさらに伸びていく中で,健康寿命をいかに伸ばすかということは,生活の質の維持にとって極めて重要な課題である。その観点から,サルコペニアやロコモティブシンドローム予防が盛んに取り上げられているが,日本老年医学会は,虚弱・老衰・衰弱といった日本語訳で表されていたFrailtyを「フレイル」と表現する方針を,昨年決定した。加えて日本サルコペニア・フレイル研究会も10月に第二回の研究会を開催する。

 Frailtyとは,徐々に要介護状態に至るその中間的な段階を示す概念であり,その段階の定義・判断基準が明確になることによって,介護予防が一層進むことが期待されている。今回フレイルとした背景には,用語の統一が目的ではなく,これまで用いられていた老衰や老弱という表現によって,Frailtyの状態が不可逆的な老い衰えた状態である,という印象をもたれがちであったことへの是正がある。フレイルに統一することによって,しかるべき介入によって再びフレイル以前の状態に回復するという可逆性を含みもつことを明示すること,フレイルの概念の社会的認知を高めることによって,介護の予防・早期発見・回復を目指すことが最大の目的である。

 国老年医学会ではフレイルの評価として五項目を提示しているが,日本ではまだ判断基準が設定されていない。現在,飯島勝矢・東京大学准教授を主任研究者とした大規模な「柏スタディ」が展開され,その成果によってフレイルの仮説概念,すなわち要介護に至るまでの経過と,予防,さらには可逆の可能性(改善)のフロー案が提示された。今回示されたフレイルの四段階は以下のとおりである。

 第一段階 社会性/心のフレイル期:生活の広がりや人とのつながりの低下が生じた。

 第二段階 栄養面のフレイル期:食べる機能面の変化が注目された。滑舌の低下や咀嚼機能の低下によって,特にかみ応えの大きな食品を中心にかめない食品が増加し,食品摂取での食品多様性の低下がみられた。

 第三段階 身体面のフレイル期:生活機能が低下し咬合力の低下や食べる量の低下がみられ,サルコペニアやロコモティブシンドローム,低栄養の状態が起きてくることが示された。

 第四段階 重度フレイル期:要介護状態を示す。

 告では,重度フレイル期手前の第二・三段階のフレイル期では,適切な対応による回復の期待が示されている。

 活の中での栄養摂取は,口腔を介した「食べる」行動によって行われる。フレイルの予防として,歯科との連携によって食べる力を低下させないこと,さらに食べる力の低下を早い段階でみつけ,それらに対応した食事設定を提案していくことが重要である。始動したフレイル研究によって,食事の観点から高齢者の自立した生活を支持するためにできることがよりクリアとなってきた。



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第102号平成27年9月1日

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