建帛社だより「土筆」

平成29年1月1日号

口から食べる楽しみを支援するために

神奈川県立保健福祉大学教授  杉山 みち子この著者の書いた書籍

 齢者が口から食べる楽しみを感じながら平穏な最期を迎えられる社会でありたい。「口から食べる楽しみの支援の充実」が,平成27年度介護報酬改定の1つの柱となり,介護保険施設の摂食嚥下機能や認知機能の低下がみられる高齢者に対し,管理栄養士や多職種による食事時の観察(ミールラウンド)やカンファレンスを通して課題解決が取り組まれるようになった(経口維持加算の見直し)。平成17年には,管理栄養士による栄養ケア・マネジメントが介護報酬に初めて導入された。このような一連の介護保険制度における管理栄養士による栄養管理体制の導入と推進は,三浦公嗣前厚生労働省老健局長(現慶應義塾大学教授)らによってなされた。
 養ケア・マネジメントでは,病院・施設入所高齢者の4割に存在する低栄養に対応するシステムとして,個別の栄養ケアとそのマネジメントのためのPDCAサイクルや評価に基づく継続的な品質改善活動が導入された。このシステムづくりや評価研究,人材教育などには,小山秀夫前国立医療・病院管理研究所部長(現兵庫県立大学大学院教授)や多様な領域の研究者,臨床栄養師の実務者らがともに取り組み4半世紀以上が過ぎた。この研究チームは,政策・マネジメントと栄養領域の研究教育者とが初めて連携・協働し,さらに口腔等の研究者ら多くの実践活動の専門職の参加を得て,包括的・統合的に機能し介護保険制度改正に寄与し続けてきた。そこでは,日本健康・栄養システム学会が研究・議論の場と臨床栄養師研修(管理栄養士資格取得者対象の900時間インターン研修,現在臨床栄養師310人)という人材育成の場を提供してきた。
 域包括ケアシステムが各地で推進され,平成30年に向けて地域高齢者のフレイル(虚弱)の根底にある低栄養への対応が,高齢者の保健事業として検討されている。さらに,平成30年には診療報酬・介護報酬の同時改定を迎える。高齢者の口から食べる支援の充実をめざした栄養ケア・マネジメントでは,施設からの在宅復帰支援,通所・訪問サービスやショートステイを活用した切れ目のない施設・在宅の連携した看取りまでの展開が求められていく。これには,介護保険施設の管理栄養士の現配置状況(施設当たり平均1名)ではもはや対応できないだろう。その一方では,地域の特別な配慮を必要とする子どもたちの口から食べる楽しみの充実の支援をめざして栄養ケア・マネジメントに取り組むことが緊急の課題となっている。
 在,寝たきりの高齢者のもとに冷凍宅配される食事を介護ロボットが介助することや,小型カメラの映像をもとにスマホによるカンファレンスで介護ロボットをケア計画どおりに操作することが,現実となりつつある。しかし,これは,栄養ケア・マネジメントがめざす高齢者が口から食べる楽しみを感じながら平穏な最期を迎えられる社会の姿だろうか。これからの栄養ケア・マネジメントに関する教育研究や実践活動では「口から食べる楽しみの支援」という目標をしっかりと掲げ続けていきたい。

目 次

第105号平成29年1月1日号

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