建帛社だより「土筆」

平成29年1月1日

口(くち)のリハビリテーションのすすめ

大分東部病院リハビリテーション部部長  森 淳一この著者の書いた書籍

 気になり,食べることもままならず,チューブで栄養を与えられる生活を余儀なくされたら,どれほど辛く苦しいであろうか。食いしん坊の私だったら生かされているにすぎないとさえ感じるかもしれない。だから,口から食べられない人を,1人でも多く1口でも食べていただけるよう支援したいと考えるのは当然であろう。しかし,食支援は1人の努力だけでは無力であり,この領域にかかわるあらゆる専門職が,「寄ってたかって」かかわらない限り,これを実践することは難しい。
 た,口腔ケアが大切とお題目のように叫ばれているなか,医療・介護現場や介護予防場面においても,まだまだ口(口腔)が少し忘れられ,後回しになっている気がする。
 のようななかにあって,口の守護者と食支援のできる専門職を増やし,情報交換できる場を提供するために,平成28年7月,「おおいたオーラルリハビリテーションケア研究会」を立ち上げた。オーラルリハビリテーションとは「どのような障害があっても,最後まで人としての尊厳を守り,『諦めないで口から食べる』ことを大切にする全ての活動」である(栗原,1999より引用)。
 の研究会は,病院,施設,在宅で療養中の方々の口腔環境を整えるために,呼吸,摂食・咀嚼・嚥下,そしてコミュニケーションを重視し,①口腔ケアの徹底,②栄養管理,③廃用症候群の予防,④徹底したチームアプローチと医科歯科連携の推進,⑤急性期から在宅まで継続した支援を実践する。そのために,保健・医療・福祉領域の関係者,当事者などが集まり,健常者・障害者,在宅・入院・入所を問わず,オーラルリハビリテーションの実践,研修,調査・研究などを行い,人としての尊厳を守るあらゆる努力をすることを目的としている。
 の研究会の「こだわり」は,口から食べるだけでなく,楽しんで食べること,噛んで食べることである。そのため,「摂食・嚥下」という言葉に「咀嚼」を加え,「摂食・咀嚼・嚥下」として,少し忘れられがちな口(口腔)に焦点を当てたいと考えている。脳卒中生活期の「食」の問題の多くが,口腔に関することだと言われていることからも,ここに焦点を当てることは当然であろう。
 年,加齢や低栄養により筋肉量が低下するサルコペニア(筋肉減弱症)や骨,関節などの運動器の機能低下により,立つことや歩く機能が低下するロコモティブシンドローム(運動器症候群)が問題とされているが,その元凶は歯や口の機能が低下したオーラルフレイルとも言われている。
 炎が日本の死亡原因の4位から3位となり,そのなかで高齢者の誤嚥性肺炎が高い割合を占めているとされている。口腔ケアの有用性が科学的に証明され,30年が経過しようとしている。もうそろそろ,真の口腔専門家を養成するか,あるいは多職種が「寄ってたかって」本気を出す時期がきている気がする。

目 次

第105号平成29年1月1日

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