建帛社だより「土筆」

平成29年1月1日

新入生の理科基礎学力

関東学院大学教授  倉沢 新一この著者の書いた書籍

は,管理栄養士養成課程の1年生春学期に開講されている「生化学Ⅰ」を担当しています。定員確保のため多様な入試を行い,その結果,理科の基礎学力に大きな違いがある学生が入学してきます。以下にこのような学生に対して悪戦苦闘している一端を紹介します。
 科書が読めない? ときどき読みづらそうな漢字があります。カタカナの専門用語はつっかえますが,基本的にはスラスラ読みます。しかし,書いてある内容を把握できないことがあります。理論的な論理構成をとらえられず,結局何が書いてあるのか的確に理解できないのです。教科書の記載に関して質問されても「教科書に書いてあるとおりです」といった,学生に対しては不親切な回答になりがちです。硬い言い回しで書かれた文章に接する経験が不足しているためだと思います。小説や新聞をたくさん読むように,アドバイスをしています。一方で,ポイントを絞った平易でていねいな表記にすることや,イラストを多用し,学生の理解をサポートすることに特化した教科書の作成の検討も必要かと思います。
 分の言葉で説明できない? 授業中に質問をすると,語尾をやや上げた調子で,単語のみで答えることが多く見受けられます。また,該当する部分の教科書を読み上げる場合もあります。このようなときは,「『ただ今の質問に対する私の答えは』から始めて,『…です』で終わるように,自分の言葉で答えてください」と,要求します。学生は,初めは戸惑いますが,時間をかければそれなりの回答になります。また,簡単な質問をした後に,「隣の人と質問の答えを相談してください」と要求します。隣同士でだんまりの行をしている場合は,そばに行き相談するよう催促します。回答を求める場合は,もちろん「私たちの相談の結果の答えは,……です」と答えてもらいます。このような対応がなぜ必要なのか,管理栄養士に限らず,社会人として業務を進める場合は,まとまった文章で事がらを理解したり,意見交換することの大切さを学生に繰り返し伝えます。
 礎学力が大きく違う学生が混在するクラスの授業法は? 残念ながら本学の学生は,理系科目不得意層が主流です。そこで,主流に合わせたレベルの授業を行うと,得意な学生にとっては物足りない授業になります。なかには,能力がありながら多くの不合格科目があり,4年で再履修している学生もいます。理由を尋ねたところ,1年生での授業が簡単すぎて授業を甘くみてしまったことが敗因ですと答えてくれました。優秀な学生をスポイルしてしまったようです。そこで,習熟度別クラス編成を考えたことがあります。しかし,学年全体での成績のつけ方で行き詰りました。優秀クラスと普通クラスで,特性に従った異なる授業をした場合,優秀クラスの下位と,普通クラスの上位の成績をどのように整合性を保つかです。そこで習熟度別のクラス編成を断念し,授業中に発展的な内容であると断ったうえで,トピックスを入れ込み,そのトピックスに関連した事項を調べて提出した場合は,質疑したうえで加点の対象にすることなどを試みています。

目 次

第105号平成29年1月1日

全記事PDF