建帛社だより「土筆」

平成29年1月1日

医療秘書教育と短期大学

元関西医療技術専門学校長  鈴木 隆一郎この著者の書いた書籍

 療秘書(Medical Secretary)は,欧米では戦前から存在した職種です。わが国では,戦後に渡米留学した医師たちがその働きを高く評価し,秘書養成校に働きかけ,昭和40年代後半に養成が開始されました。
 和63年に会員校35校をもって医療秘書教育全国協議会が設立され,医療秘書技能検定を開始し,教育の目標設定と技能到達レベルの均質化に貢献してきました。平成28年には同検定の累積総受験者数は37万人を超え,会員校は158校,内訳は大学3校,短期大学11校,専門学校144校となっています。
 期大学は,学校教育法で「深く専門の学芸を教授研究し,職業又は実際生活に必要な能力を育成する」ことが目的とされ,職業教育をも重視する教育機関として位置づけられていますが,当節の少子化の影響を最も強く受けているように思われます。すなわち,平成28年度当初の短期大学数は341校でピーク時の57%に減少し,在籍学生数にいたってはピーク時の24%に過ぎません。大学が99%,専門学校でも78%で踏みとどまっていることから,短期大学は少子化の影響以上の問題に直面しているものと考えられます。短期大学の先生方,経営企画担当の方々は,様々な対策を模索され,その1つとして,卒業後の将来に明るい展望のある職種を養成する職業教育の提供も検討されていることと推測します。
 日,医師としても学校経営者としても高名な先生が「少子高齢化の進行著しい現在,教育は斜陽産業です。それに対して,医療は永遠の成長産業です」と語っておられました。そのとおりだと思いますが,医師・看護師をはじめとする医療職の養成には,実習施設・設備等にかかわる投資や教員資格など高いハードルがあり,簡単には取り組めません。しかし,世間一般の目からみて医療職の一端と考えられている医療秘書の養成には,そのようなハードルはありません。医療秘書養成には,必ずしも常勤の医師教員を置く必要はなく,また,当節ではどの学校にもある,1クラスの学生数に応じたパソコンを備えた実習室以外に特別な設備は必要ありません。
 急医療や地域医療体制,医療保険制度のあり方,医療と介護の連携,大災害時における迅速な医療の提供など,医療制度はさまざまな問題や課題を抱えています。このような状況のもと,医療秘書にはチーム医療の重要な一員としての職能の発揮や医療事務の合理化にかかわる専門性が期待されています。
 た,少子高齢化の加速,疾病構造の多様化などを背景に,増大する一方の医療需要に伴い,医療秘書に対する人的需要も年々拡大しています。私が知っている短期大学医療秘書学科の1学年の定員は40名ですが,定員割れもなく就職もきわめて順調です。
 今の短期大学の発展を考える際,医療秘書の養成を視野に入れることは個々の短期大学の経営に資するのみでなく,わが国医療全体のサービスの質の向上や安定,さらには国民医療費の有効利用にもつながる可能性を有すると考える次第です。

目 次

第105号平成29年1月1日

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