平成30年1月1日
臨床実習指導における環境調整について
春日居サイバーナイフ・リハビリ病院リハビリテーション部副部長 言語聴覚士 内山 量史この著者の書いた書籍
ここ数年は毎年1,700名を超える言語聴覚士が国家試験に合格して医療や介護,福祉の現場で勤務しています。言語聴覚士の養成課程の中で重要なカリキュラムの一つとして臨床実習があり,言語聴覚士を目指す学生は,慣れない環境で緊張しながら実習指導や関連職種,患者とのコミュニケーションを図りながら必要な知識や技術を習得します。
平成12年より実習指導を引き受け,これまで70名以上の学生の指導に携わってきましたが,学生や実習施設を取り巻く環境は大きく変化しています。核家族化が進み,コミュニティが崩壊している環境で,学生が高齢者と接する機会は減少しています。
また,「ゆとり教育」「さとり世代」と称される若者気質を持ち合わせている学生も少なくない現状で,インターネットの普及によって問題解決力の低下や集団行動の苦手さも叫ばれています。臨床実習を引き受ける施設(言語聴覚士)側は病院の機能分化の促進が図られ,在院日数が短縮される中で,疾患別リハビリテーションや算定上限日数の導入,単位制や365日リハの導入,これに障害の重度化と複雑化も加わり臨床現場では多くの言語聴覚士が日々の通常業務に追われている状況も否めません。
このような環境要因の中,日本言語聴覚士協会発行の『臨床実習マニュアル』の実習指導方針である,①これまでの学習を臨床の場で応用し,臨床の基礎能力を習得,②他の専門職との関係性の理解,言語聴覚士の役割の認識,③患者,家族への接し方や社会人としてのマナーの習得を実践するのは容易ではありません。
当院では実習生に多くの患者と接する機会を設けて経験値を上げ,学生なりの尺度(物差し)の構築と発展性を促すために,複数の言語聴覚士がそれぞれの役割をもって実習生の指導にかかわります。また,環境調整の面では,①前日のうちに翌日の実習スケジュールを作成して事前準備を促す,②学生が自由に活用できる時間を1~2時間設けることで自主的な行動を促す,③学生が使用する空間(居場所)を準備する,④提出物の簡素化を図りながら自らの目標設定と達成感を意識化する,⑤レポート作成の経過が視覚化されて保存できるようにサブノートを活用する,⑥専門用語にとらわれない観察ポイントを意識付ける着眼力トレーニングの実施,⑦チームアプローチの重要性を理解するための他部門での研修,⑧介護保険領域での言語聴覚士の役割を理解するための介護老人保健施設などの見学を実践しています。
学生にとって,言語聴覚士を目指してこれまでと異なった環境(臨床場面)に出て多くの経験を積む臨床実習の役割は大きく,指導者には人間性や指導力,臨床能力などが求められ,後進の指導を担うという重要な責任があります。臨床実習指導者の教育力の問題が取り上げられる昨今,理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会が開かれ,今年度中に指定規則の見直しが行われます。今後,言語聴覚士の養成教育についても検討されることを期待しています。
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