平成30年1月1日
常識をくつがえす・目からうろこの「靴教育」
早稲田大学人間科学学術院招聘研究員 吉村 眞由美この著者の書いた書籍
私の教え子が幼稚園実習に行った際の話です。彼女は「保育内容(健康)」の授業で私から靴教育を学び,課題で靴教材の作成も行いました。そこで,実習先で自作の靴教育絵本を子どもたちに読み聞かせし,役立ててもらいたいと考えて準備したところ「うちの園は,はだし保育に力を入れているから,靴教育は園の方針と合わない」と断られてしまったそうです。また,靴を左右逆に履いている年少児に気がついて直そうとすると「靴が大きいから間違えるのは仕方ないのよ」と,直さずに遊ばせる先生の姿に驚いたと報告してくれました。どちらも根底には,現場の先生の知識のなさからくる誤解があることが読み取れます。他の保育・教育現場でも同じような話が聞かれます。子どもの健康のために正しい靴の知識は重要です。指導者であるはずなのに,なぜ靴の知識がないのでしょうか?
その原因を探るには,日本の履物の歴史を知ることから始めなければなりません。多くの子どもたちが靴の生活に変わったのは,第二次大戦後だといわれています。ヨーロッパには千年以上の靴の歴史がありますが,日本にはわずか70年余の歴史しかありません。そのため履物が靴に変わっても,昔ながらの鼻緒文化が日本人の靴文化に色濃く影響を与えていると考えられます。
例えば,いまだに各家庭の玄関には「下駄箱」がありますし(入れているのは靴ですよね),軽く・幅が広く・手を使わずに履ける靴が「足に優しいよい靴」だと思われています(この条件は鼻緒の履物の条件と一致します)。つまり,靴の機能性に関する知識が乏しいため,メーカーやブランドを盲信して選んだり,足を測る習慣がないため,自己流のフィット感を頼りにサイズを決めたりしています。
また,靴のひもをほどかず,そのまま脱ぎ履きできるくらいの緩さで結んだままにしている人が大多数ですが,その履き方を習慣にすることは,「ゆるい靴が丁度よいと感じる『足感覚』」を刷り込むことにつながってしまい,あとあと困ったことになります。ゆるい靴では,足が前滑りするため,常に足が緊張した状態で靴を履くことになり,よかれと思って選び,履いている靴が,足の疲労を生む原因になりかねないのです。
その根本的な理由は「公的な靴教育」が形成されていないためです。そのため大多数の大人に靴の知識がなく,誤った種類やサイズの靴が選ばれ,ゆるめの履き方が家庭でしつけられ,保育・学校現場でも子どもたちの誤った状況が正されることがないのが現状です。
そんな憂える現状を解決し,子どもたちの一生の健康習慣づくりを目指す教育として「靴教育」の研究を重ねています。靴教育の内容は,①機能性を考えた靴の種類選び,②足に合ったサイズ選び,③正しい履き方の三つで,指導者・子ども・保護者を対象としています。内容は簡単明快,生活に身近で即効性があります。詳しくは『コンパス幼児の体育』(前橋明編著,建帛社刊)に執筆しています。ぜひ一度お読みいただき,先生方の教育の一部に加えてください。
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